湿った樹木の扉が古びた音を軋ませる。
静けさに支配された空間。
研ぎ澄まされた耳には雨音だけが届いて。
鳴り響く雷は心音に混ざって身体中を駆け巡った。
「雨、止まないね」
ぽつりと零したその声は静寂に掻き消されて。
降り注ぐ雨の激しさだけが視界を覆う。
いつものようにチームで仕事をして、終わった旨をエルザ達へ報告する為にハッピーが飛び立ってからしばらくしてすぐに豪雨がやってきた。
「ハッピー…大丈夫かな」
ぽたぽたと滴る雨水を眺めれば、相変わらずの暗雲が広がっている。
ひとり呟いて唸ってみてもいるはずの相手からは何の応答もなく。
振り返ればナツは静かに炎を揺らめかせていた。
「ナツ?」
「あん?」
確かめるようにその名を呼んで。
こくん、と息を飲めば返された言葉は普段と何も変わらず、ほっとする。
「聞こえてるなら返事しなさいよ、独り言になっちゃうでしょ」
「いつもじゃねぇか」
自然と緩んだ頬を誤魔化すように口を尖らせて。
響く雨音を打ち消すように声を出せば半眼が返された。
呆れるように溜め息ひとつ。
吐き出したかと思えば突然立ち上がって距離を縮めてくる。
「な、なに?」
大きく見開いた瞳をゆっくりと瞬かせて。
炎を纏った掌が近付く様を呆然と眺めた。
「服、乾かすだろ」
「え?…あ、あぁ。うん」
「いくらルーシィでも風邪引きそうだもんな」
「ちょっと?」
かっかっか、と無邪気に笑う様子にひくり、と口許を引き攣らせて。
悪戯に笑顔を模るその頬へ手を伸ばせば。
然して気にした風もなく無造作に手首を掴まれる。
疑問に思う間もなくバランスを崩された身体はぽすん、とその胸元へと押し付けられて。
抱き締められるように身体が暖かな空気に包み込まれた。
「これで同時に乾かせんだろ」
満足そうに笑う声に溜息ひとつ、呆れたのも束の間。
仰いだ視界に映る姿がいつものナツとは違って見えて。
濡れた髪から滴る水音が一秒を長く感じさせる。
揺らめく炎の熱と高鳴る鼓動はまるで永遠のように長くて―――零れた吐息は音になる前に飲み込まれた。
at that moment
→
おまけ。
***
07.26.2011*ナツルーの日。
ギリギリに日記に投下したのを加筆して書き直し。
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