かたかたかた、吹き付ける風に揺られて薄っぺらい扉が音を立てる。
その微かな音に深い眠りから引きずり出され、ウェンディはゆっくりと目を開けた。
ぼんやりとしたまま周りを見渡せば、狭い室内が真っ黒に染まっている。

静かな、静かな夜だった。
窓の向こうに浮かぶ、分厚い雲を纏った月だけが鈍く光っている夜だった。

重たい灰色に遮られた月光というのは微々たるもので、はっきりと室内を照らす事は無い。
知らぬ間に一人暗闇へ放り出されたようで、起きたばかりの彼女の背を嫌な汗が伝った。
……が、正面から聞こえてくる複数の寝息と、首筋に触れる相棒のものであろう柔らかい毛が、しっかりと『誰か』の存在を教えてくれる。
その事に気づいたウェンディは、いつの間にか感じていた恐怖と共に深く息を吐き出した。

そう、実際落ちついて考えてみれば、何の問題もない。
彼女はマスターの勧めでナツ&ルーシィチームに混ざって『日の出とともに現れるモンスター』を退治に来ており、その出現時間と場所的な問題を考慮した結果、現場に近いこの山小屋で待機することになっていたのだから。


(…いま、何時なのかな……)


頭がすっきりしてくると、ウェンディは一番にそう思った。
何しろ山登りに疲れて早々と寝てしまった彼女は、いつ寝たのかもどのくらい眠ったのかもわからなかったのである。
ただ、あたしたちが出来るだけ起きてるから大丈夫だよ、ルーシィのその言葉で沈むように眠りに落ちていったのは覚えているので、日付はとうに変わっているのだろう。ナツはともかくそう言っていた彼女が眠っているのだから、そのくらいの予想はついた。


(は、はずかしい…!!)


疲れて寝てしまった事も、ルーシィの言葉に申し訳なく思う反面安心してしまった事も、自分はまだまだ子供ですと言っているようなものである。
仕事に行く事も多くなってきて少し大人になった気がしていた彼女だが、いくら精神的に成長していると言っても所詮身体的にはまだ子供。自己嫌悪のような羞恥心のような、早く大人になりたくて焦れるような…複雑な感情が、じわじわとその身を支配していく。
ウェンディは誰一人起きていない小屋の中だというのに、顔を隠すように寝返りを打った。


(…あ。)


するとタイミング良く、少し高い位置にある窓の周辺が徐々に明るくなってきたではないか。
影が動くに従って明るくなるところを見ると、恐らく雲の切れ間に差し掛かったのだろう。彼女は青白い月光が窓を模した形で差し込むのを、今まで考えていた事も忘れて無意識に目で追った。
光を求める事は人間の…いや、生物の真理なのかもしれない。
純粋な瞳はきらきら光る窓から降り注ぐ月光を辿り、真っ直ぐ斜め下に移動していって。最終的には正面の壁に…


「……!!」


正面の壁に到着したのだ、が。


(みみみ見てません、わたし、何も見てません…っ!!)


その瞬間、ウェンディは光の終着点から勢いよく目を逸らし、妙な興奮に呑まれながらひたすら同じ言葉を繰り返してしまった。

ただ、ナツとルーシィが壁に寄りかかって眠っていただけ。
ルーシィが彼の肩に頭を乗せ、そんな彼女の頭にナツが頬を寄せて、ぴったりとくっついて寝ていただけ。
力が入っていない彼の腕が、それでもしっかりと毛布の上から彼女の肩を抱いていただけ。

ただそれだけなのに、ウェンディは見てはいけない様なものを見た気がしてならなかったのである。
実際二人はやましい事をしているわけじゃないし、火竜であるナツにルーシィが暖を求めて近寄るのは自然かもしれない。それこそ、二人の仲の良さを考えてみればそれほど気にすべき事でもないかもしれなかった。

だが、安心しきって眠るルーシィと満足そうなナツの表情は、間違えようもなく幸せそうで。
それが単に『仲間』や『友情』という言葉で片付かないことは、まだ幼い彼女にも何となくわかってしまったのである。


同じチームの彼らは実際かなり仲が良かったけれど。
でも、周りが囃したてるような事を言っても付き合っていないと言っていたし。
実際今日一日過ごしても、そのような素振りは全くなかった。

でも…もしそれが、周りに関係を秘密にする為の言い訳だったら?
もしそれが、子供である自分に気を使っての事だったら?
もし本当は、二人が既に相思相愛の仲だとしたら…?


かああああ。
沸騰するように真っ赤になった頬と辿りつきそうな答えに、ウェンディは急いで毛布を頭の上まで引き上げた。
頬が熱い、なんだか分からないけれど恥ずかしい。
絶対にこれは、子供である自分は見てはいけなかったのだ。

明日二人にどのような顔で会えばいいのか、寧ろ自分は今から眠れるのか、マスターに言われて付いてきたが自分は邪魔だったんじゃないのか…もはやどうしたらいいかわからない疑問でウェンディの頭はいっぱいである。
もしこれが彼女の目指す『大人』と言うものに含まれているのであれば、少女はまだまだ大人になれそうもなかった。

でも…それでも、きっと。

これを悟れただけ大人へと近付いたに違いない。ウェンディはそう確信するとシャルルの隣で眠る青い子猫を真似て、


(で…できてる…!!)


強くうなずいたのだった。


***
Ms.Perfume:ティアラ様より1周年記念DLFを頂戴致しました◎

ウェンディ…!
超絶可愛いウェンディと恋仲宜しく仲良く寄り添っているナツルーが…悶えそうな程にによによしました。
かーわーうーいー。
もう早くくっつけばいいのに。
でもきっと眠る前はぎゃあぎゃあといちゃついているようにしか見えないやりとりをしていたに違いないと思うのです。

続けていて下さっていたからこそ出遭えたしあわせ。
一周年本当におめでとうございましたーーーっ!!!

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