「あっつー…」

襟元を指先でつまみ上げ、ぱたぱたと風を起こす。
体に巻き付く空気が既に熱を持っているのだから、この行為にあまり意味はないと知りつつも。
それでもやはり些少なりとも涼を取りたいと願うのは当たり前の事だろう。

「そんなに暑いか?」
「なんであんたはそんなに鈍感な訳!?」

同じ空間にいながら、かたや動く事さえままならず、かたや涼しげな顔をしてソファでくつろぐ。
一体この差は何なのだろうかとルーシィは首を捻るも思い当たらず、やっぱり“ナツだから”で頭の中から追い払った。
世間一般的に猛暑と言われているのだから、こちらの感覚が間違っているのではない。
平然と首にマフラーまで巻けるその鈍過ぎる感覚が問題なんだ、と。

―…しかし、それにしても。

「腹立つわー…」
「んだよ。冷てぇ奴だな」
「あー、もう好きにしなさいよ」

何と表現してくれても構わないから、さっさと帰れと手で払う仕草を繰り返す。
ただでさえ暑さで不快指数が高いのだ。
家主が熱気で倒れそうになっているというのに、不法侵入者がけろりとした顔をしているのではイライラ指数もぐんと跳ね上がろうというもの。
しかも、今日はいつも仲裁役としてフォローを入れてくれる彼の相棒の姿もない。

「ったく、あぁぁー…」

体の熱を少しでも奪ってくれないかとテーブルに押し付けるも、一瞬で体温と馴染んでしまうソレに諦めの息を吐き出して。
じんわりと全身に浮かんだ汗の膜を落とせば体温の発散が進むかもしれないと、のそり重い腰を上げた。

「どこ行くんだよ」
「シャワー浴びるだけよ。…覗いたら吹っ飛ばすからね」
「あぁ?…ふぅん、そうなんだ?」
「そ、う、よ!」

背後から聞こえてくる声に顔を向ける事もなく、必要なものだけざっと手に取りバスルームへと足を向ける。
部屋にナツがいるのに、…と彼の相棒がいたらツッコミを入れられそうだが今はそれよりもスッキリしたい方が勝る。
冷たいシャワーでも浴びて、体のほてりが落ち着いたら多少なりとも相手する余裕が生まれてくるだろう、とバスルームの扉に手を掛けて。

「―…ちょっと、なによ」

とん、と背後からドアを押さえた見覚えのある腕にとくっとひとつ心臓が跳ね。
背中から直に伝わってくるナツの体温に、いつの間にこんな近くにいたのだろうとバスタオルをぎゅっと抱き締める。
頬に触れそうな程近くを通る腕と背に押し付けられた彼の胸は、共にナツが“男”である事を意識させる逞しさで。

かぁ、と勝手に熱を発し始めた頬に、ルーシィは慌てて顔を逸らす。
その意味を知ってか知らずか、くくっ、と楽しげな笑い声が鼓膜に届いた。

「なぁ、ルーシィ」
「な、に…っ」

右側には、通さぬとばかりに突っ張られた腕。
思わず腰を引けば、やはりとん、とぶつかった体。

そして左側には、―…背けた顔を確かめようとするかのように先回りしたナツの顔。

「熱、冷ますの手伝ってやろうか」
「は!?な、なにをしようって…!」
「さぁ。何がいい?」

くっ、と楽しげに持ち上げられたナツの口元に、ルーシィは反射的にぎゅっと固く瞼を閉じる。
暑い時には汗をかくのが1番だ、などと平然と口にするこの男は一体何をしようというのか。
確かにそういう間柄ではあるものの、それでもこんな真っ昼間から考えるような内容ではない事は明らかで。

「どうする?ルーシィ…」

ゆっくりと、でも確実に狭められていく空間にルーシィの喉がこくりと鳴る。
そしてナツは、そんなルーシィの耳朶へそっと唇を寄せ、やはりくくっと声を出して楽しそうに笑った。


おまけ
***
Guroriosa:碧っち。様よりナツの日を頂戴致しました◎

熱、冷ますの手伝ってやりなヨ!!!と全力で押してやりたい。
だがしかし、個人的にはおまけの方が好きv

ナツの日御馳走様でしたーーーっ!!

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