「な、ナツ…っ?」

「…」

「ねぇってば…!」




痛いくらいに引っ張られている腕が熱い。
けれど、それ以上に心臓が壊れそうなほどにドキドキしてる。




「…なんで、急に…こんなっ」

「…っ」

「ちょっ、止まりなさいよ…!」




息をつく暇もないくらいのスピードで、ナツはどんどん先を行く。

たまらず、つかんでいる腕を離そうと引っ張れば、それに反応するように、更に力が込められた。


まるで…あたしが離れるのを許さないかのように。





「っ痛いってば…!」

「…るせぇ!」

「…っ」




一瞬、腕を掴む力がに強くなったかと思うと、急に全身を包むように圧迫感があたしを襲う。



「っ、や…苦し…っ!」

「っ…」




それは抱き締める、なんて可愛いものじゃなくて。
滅茶苦茶な力加減のそれは、苦しさにもがくあたしの手足さえも押さえ込む。



視界の端で、赤い傘がふわり、と地面に舞い落ちるのが、映った。



「…んでっ、」

「ナ、ツ…?」

「何で…何でついてこうとしてんだよ!」




耳にビリビリとナツの怒号が響く。
息をするのもやっとなくらい、きつく回された腕に思わずビクッと肩が揺れた。





「、ナツ…怒ってるの…?」

「っ当たり前だろ!?」

「あたしが…ヒビキと帰ろうとしたから?」

「っ…」





あたしの問いかけに、ナツがぐっと唇を噛む。
悔しそうに、けれどどこか切なそうに。



ザアアア…


容赦ない雫が、地面を、二人を、叩く。

張り付く制服が、うっとおしいのに、その奥のあたしよりも高い体温に、心臓がドキドキと脈打つ。

ナツに聞こえちゃうんじゃないかと思えば思うほど、心臓はその動きを速めて。




(そろそろ離して欲しい、のに……)




でも離れがたい、なんて気持ちがあたしをこのドキドキから解放してはくれない。



濃くなった桜色。

落ちたままの赤い傘。


……ナツの、体温。




いつもより研ぎ澄まされた感覚が、普段は気にしないナツの情報を脳へとどんどん送り込んでいく。



(も…無理…っ)




…ドキドキしすぎて心臓が痛い。



「…っくそ…」




不意に、耳許でぼそりとナツが呟いた。




「…楽しそうにしやがって…何が"一緒に帰らない?"だよ…」

「ナツ…?」

「オレはお前の…か、"彼氏"だろ!?」



「………」



口を引き結んで、目を伏せるナツの眉間はぐっと寄せられて。
回される腕にも、痛いくらいに力が入ってる。


けれど、その内容は。その言葉は。



「…ヤキモチ?」

「は…?ヤキモ…、っ!?ち、ちち違ぇよ!!」





ズザザザザ、と壁際まで思い切り後ずさるナツの顔は真っ赤で。



…どうしよう。



目を見開いて、口をぱくぱくさせながら視線を左右に揺らしてるその姿に、胸の奥に火が灯る。




嬉しい、かも。
…物凄く。




「っ、ぜ、全部ルーシィのせいだかんな…!」

「え?」

「…ルーシィがいっつも…っ他の奴と仲良くするから!」

「え…、え?」




顔を真っ赤にしたナツが、あたしを睨み付けながら吠える。




「今日、だって…グレイのやつと一緒に飯食ってたじゃねぇか!」

「あれは…ていうかジュビアもいたでしょう?」

「でもオレは誘われなかった!か、彼氏…なのに!」

「っ…だって、あんた先に食べてたし…それに食べ終わったらすぐどっか行っちゃったじゃない!」

「追いかけてくれるかと思ったんだよ!」

「え…」

「あっ…」




しまった、という顔でナツが口を塞ぐ。
けれど、はっきりと耳に届いたその言葉。




「…追いかけてほしかったの?」

「違っ…だから!その…」

「だから…ずっと不機嫌だったの?」

「っ!」



珍しく言い淀む彼の目が、気まずそうに逸らされる。

そして、そのままあたしの目を見ないまま、叫んだ。




「…悪ぃかよ…っ」




どくん、と鼓動が揺れる。





「お前いっつも他の奴とばっか笑ってるし…」

「え…」

「本当はっ…オレ以外の奴と仲良くなんかして欲しくねぇ、けど…」




本音が、想いが、零れてく。
そんな風に思ってたなんて知らなかった。

いつも天真爛漫で、誰とでも仲良くしてるナツが、あのナツが。





「だから、その……っあぁぁ!くそっ!!」

「っ…」

「ああ、そうだよ!妬いてんだよ、悪いか!?」



ぐしゃり、と濃くなった桜色が、乱暴にかき混ぜられて。
けれど、乱れた髪の隙間から、不安そうな視線が見え隠れする。



「だから、その…っ」




…かと思えば。



「っ帰る!!」

「え?ちょ、ちょっとナツ!?」

「うるせぇ!見んなっ!」




鱗柄に顔を埋めたかと思うと、くるりと身体を反転させて、早足で逃げるように駆けていく、桜色の頭。


慌てて追いかければ、風に揺れて見えた、真っ赤に染まった耳。





…全く、本当に。





「…人の話も聞きなさいよね」





口許が緩むのを感じながら、隣に駆けよって、その腕に手を回す。


気持ちが伝わるように今度はあたしから指を絡めて。
未だ熱の冷めないらしいその耳へと、精一杯の二文字を吹き込む。



…雨は、いつの間にか上がっていた。









***
君とぼく。:彼方さまよりさんまんだ&一周年企画記念に頂戴致しました◎

実は此方、いちまんだ企画時にリクエストで書いて頂いたお話の続きなんですヨ。
放課後、君と。のなっちゃんやきもきver.。
しかもしかも、ヒビキが大好きすぐるゆんを想ってとしか考えられないまさかのヒビキ登場にかなたんへの愛が溢れ返って胸がきゅぅーと締め付けられました。

なっちゃんの「―か、彼氏…なのに!」の彼氏連発にくぁあっとなってごろごろのた打ち回りそうになりました。
あまりの初々しさに。
可愛過ぎてもうだめ。

さんまんだ、一周年、本当に本当におめでとうございました!
これからもずっとずっと大好きです◎
ありがとうございましたーーーっ!!!

Back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -