―…ヒトの心など、読めなくていいと思っていた。


笑顔を浮かべて。偽物の言葉ばかりを並べて。
その実、裏で考えている事は反吐が出る程に醜悪で。

それは自分が“ヒト”であるという事すら、認めたくない程に。


「俺はお前さえいればいい、…なぁ」


すり、と顔を寄せてくるキュベリオスの頭を、そっと撫でる。
コイツは、コイツだけは。
俺を裏切らない、穢れた心を持ったりしない―…。


だから、ずっと俺はコイツとだけ生きていくんだと思っていた、のに。


「ったく、何辛気臭い顔してんのよっ」


突然現れたあいつは。
自分の思いに正直で、嘘偽りの言葉など、何ひとつ口にしないで。
ただ真っ直ぐ、俺の目を正面から見つめ、笑っていて。


「もっと、顔を上げて生きなさい!」


さらり、と。その金糸の髪が揺れ。
その髪に太陽の光が反射して、とても綺麗で。

まるで太陽が降りてきたような気すらして。

思わず、息が止まったといったら。
お前はどんな事を思うのだろうか―…。





□Truth





「…ん?どうした。キュベリオス。大丈夫だ」


心配だと告げるキュベリオスの喉を、そっと撫で上げる。
ヒトの言葉が離せないコイツだけど。
俺とキュベリオスは、心の底で繋がっている。

―…そう。最初は、こいつと繋がりたいと思っただけだった。


「ヒトの心など、聞こえなくとも良いものを…」


次から次へと頭に飛び込んでくる雑音。
笑顔で、楽しそうに、嬉しそうに、目の前にいるヤツと会話しながら。
お前達は一体、心の中では何を考えている?


「はっ!…反吐が出る」


本音と建て前?…そんなもんじゃない。
塗り固められた嘘を、笑いながら口にする。

そんなバケモノ。


「お前と一緒になれたらいいのにな…」


キュベリオスに体を預け、ゆっくり目を閉じる。
頬に感じるひんやりとした皮膚の感触に、ほう、と息を吐き出せば―…。


「あんた、相変わらずキュベリオスが大好きなのねぇ」


薄っすらと目を開ければ、目の前にいたのは金糸の髪。
にっ、と浮かべられた笑顔は、やはり俺には眩しくて。
思わず手を翳し、眉を顰める。


「…なによその失礼な態度はー」


見たくない、という意思表示だと受け取ったらしい。
そんな訳ではないのだが。
それをわざわざ否定してやる必要も、ない。


「何の用だ」
「用って訳じゃないけど…、見かけたから何となく」


変かしら?…と首を傾げるルーシィ。
仮にも敵であった俺に用もなく声を掛けるとは。
しかも、俺は人の心が読めてしまうのに。―…あぁ、そういえば。

こいつは、俺が心を読める事を知らないんだったか。


「いいのか?俺の傍に近寄っても」
「ん?何で。問題あった?」
「くく、お前は知らないんだろうが――…」


正面から、彼女の目を見つめ返す。
不思議そうな興味深々なその目の色。

“畏怖”に変わる瞬間を見逃さないようにしなければ。


「俺は、人の心が読めるんだ」
「心…?え?」
「お前が今何を考えているかなど、手に取るように分かるぞ」


楽しそうに細められていた目が、驚きでゆっくりと大きく見開かれる。

そう、それでいい。
そして、そのまま、罵声を浴びせて立ち去ればいい―…。


“キモチワルイ”、“バケモノ”、“オマエナンカ”


俺が人の心を読めると知った瞬間、ぶつけられたのは憎悪。嫌悪。悪意。
ヒトは所詮、取り繕ってうわべだけで生きてるイキモノ。
心の奥底など、知られたくないのだろう。

だから俺は畏怖され、忌み嫌われて。


“近寄るな、化け物!!”


投げられた石の痛さなど、もうとうの昔に忘れた。
だから、今の俺に残っているのは憎しみだけ。


「分かったら、さっさとどこかへ消えろ」


まだ目の前から離れようとしないルーシィから視線を外し、目を閉じる。
これでこいつも“化け物”だと思いながら立ち去るだろう―…。

だが。


「…心が読めるって、本当なんだよね!?」
「あ?…あぁ、本当だが…」


がしっ、と両肩を掴まれて、かっくんかっくん揺さぶられ。
何事が起きているのか理解できないままの頭で頷けば。
なぜか、キラリと輝いたルーシィの両目。


「ちょっと、心を読んで欲しい人がいるの!」
「…おい、ちょっと待て。何を言って…」
「だって、あいつ。絶対に隠してると思うの!」
「隠してって…。俺は探偵でもな…」
「心が読めれば見つかるでしょ!」


さぁ、そうと決まれば善は急げよ!…なんて。


「ちょっと待て!俺は了解などしてないぞ!」
「いいじゃない。聞こえるんでしょ?」
「そっ、それはそうだが…!」


ぐいぐいと引っ張られる腕を、何故か振りほどけなくて。
大人しく引き摺られるように歩く俺と。
鼻歌混じりに楽しそうに歩く彼女。


「お前…っ、俺が気持ち悪くないのか!?」


サラサラと揺れる金色の髪へと話しかければ、“何で?”と返ってきた視線。
そのきょとんとした顔が無性に苛々として。
どうせなら、早く軽蔑して離れてくれと、願って。


「お前の隠そうとしてる事まで全部分かるんだぞ、俺は」

ゆっくりとそう告げれば。


「なーんだ。そんな事」

俺に向けられた、眩しい笑顔。


「そ、そんな事って…」
「気にする事じゃないわよ」
「お前、自分の心を読まれて気持ち悪くないのか!?」
「えー?別に。ってか、大変ね、あんたも」
「……ああ?なにが」


ふわり。少しだけ目を細めて優しく笑って。


「ヒトの心なんて、読めても楽しくないでしょうに」

「―――…っ!!」


あぁ、勘弁してくれ。

俺は、キュベリオスだけでいいと。
俺は、こいつとだけ生きていくんだと。

そう、割り切って来たのに。


「…あぁ、そうだな…」


新しい執着が、ひとつ。

望ましい事なのか、望ましくない事なのか。
それはまだ分からないけど。


「それで、誰の心を読めと言うんだ?」
「やった!あのね…っ」


その笑顔を、もっと。俺だけの為に。


***
Guroriosa:碧っち。様よりこぶら祭開催のお祝いに頂戴致しました^^*!

良いんですか!と狂喜したらば加筆までして下さって…っ!
心を読んで欲しい相手は勝手にナツだと思いました、ゆんですv

学ぱろでないコブルー。
わーん!
ありがとうございます!

ルーシィは怖がらなそうですよね。
興味とか小説のネタに付き合わせそうv
とか、色々と妄想が広がりました。

うあー、やっぱり是非碧っち。さまにもこぶら祭ご参加頂きたい(願
でもこんなに素敵な御話を頂戴したので無理は言わないです。

碧っち。さまー!
ありがとうございました!!


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