楽しそうな笑い声。口を大きく開けてはしゃぎ廻る姿。
靡く金糸はふわりふわりと躍るように揺れて、金色の鍵を愛おしそうに撫でる白い指先。
いつだって感情のままに表情を変えて、嬉しそうに笑顔を振り撒いていた。
けれど、最期の記憶はどうしても印象が強過ぎて―――400年経った今も、忘れることなどできやしない。
花が咲くような笑顔が涙に濡れて、必死に苦しさを隠すように歪めて叫びながら呼ぶこの名前。

「だめだよ、そんな身体で外に出るなんて…」
「お願い、ロキ。お願い…っ!」

その優しさと同じように温かかった体温はどんどんと熱を失っていって、ひんやりと冷たさを帯びて。
死期が近付いている。
信じたくもないその思いを振り払うように力なく首を振って、熱を感じない華奢な身体を引き寄せた。

「―――…行かないで。君のいない世界でなんて僕は生きられないよ」
「っ…ロキ!」
「生きて、いてくれよ―――…」

それだけでいいんだ、と願うように囁いて。
抱く腕に力を込めると抵抗していた細い腕が腰に回る。
縋るように掴んでいた掌は微かに震えていて、静かに流れる涙がぽたりぽたりと落ちていった。

「ロキ、お願い。最期の我儘を聞いて…」
「やめてくれ。―――っ…最期だなんて言わないで」
「ごめんね、ロキ…伝えなきゃいけない言葉があるの、伝えたい人がいるの…―――っ会いたいの、ナツに会いたい」

甘えるように擦り寄った君は艶めいた声で残酷なことを言うんだ。
君に救われたあの日からずっと、いつだって誰よりも近くで君を守りたいのに。
叶わないと知っていながらも君を愛した瞬間から君の為だけに存在しているのに。
それでも、君がそう願うなら君の望むままにするしかできない。

「…わかったよ。その代わり、僕からもお願いがある」

抱き締めていた腕を緩めて、彼女の頬を両手で覆う。
涙で濡れた頬はそこだけ熱を帯びていて、冷たい指先が覆った両手に触れてきた。

「ずっと、君の側にいてもいい?この先ずっと…僕の命が尽きるまで」
「―――…ロキは、それでいいの?」

困ったように眉を顰めたその額に口付けひとつ。
それがたったひとつの願い。
言葉にする間も惜しんで想いを込めて、彼女が少しでも笑ってくれるように。
そっと送り出した背中は真っ直ぐに彼の元へと向かって、桜吹雪の中へ消えていく。
きっとこれが最期。
わかっていても貼り付けた笑みを変えることなんてできない。
君の最期を嘆いては君が悲しんでしまうから。
誰よりも君が愛おしくて、大切で、大好きなんだ。
震える唇をきつく噛めば、鉄の味が涙に混ざって口内に広がる。

「君に会うまでの時間が、長くなっただけだ…」

言い聞かせるように呟いて、止め処なく流れる涙を隠すように顔を覆って嗚咽を押し殺した。
最期の瞬間は彼に譲っても、星が彼女の元へと導いてくれる。
そうして幾千の季節が過ぎ去って、時代が変わって、黄金の鍵が輝いた時―――今度こそずっと君の側にいることの出来る幸せに感謝した。

「…それにしても、つくづく君は家柄に縛られる運命みたいだね。ルーシィ」

揺れる金糸が見えなくなるまで手を振っていたロキは思い返した記憶に苦笑する。
大きな屋敷の令嬢として生まれた彼女は、幼い頃から家族と使用人しか周りにいなかった。

「でも、家出しちゃうところがやっぱり君らしいかな」

込み上がる愛おしさにくすくすと笑みを零してロキはひとり呟く。
大切な彼女との大事な想い出。


`―――待ってて、ナツ`


前世の記憶なんてなくて当たり前。
ルーシィがルーシィであることに変わりなんてない。
けれど、涙を流しながら微笑んだルーシィが寝言でそう漏らした瞬間、またあの時を繰り返すような気がして怖くなった。

「君が好きな桜の季節だから、かな」

ぱたん、と静かに閉めた扉へ寄り掛かってロキは小さく溜息を吐き出す。



もう二度と、君を失いたくないんだ―――。



想いは褪せることなく
唯只管に鮮やかになった


***
なつるろき的回想っぽいなにか。

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