声が響く。頭の中が割れそうなほどに駆け巡る必死な声。
視界を埋め尽くす桜吹雪の中、舞い散る桜色が歪んでいく。
霞む世界はただただ優しく意識を包んで、終わりゆく命を静かに見守っていた。

「…―――っくな…逝くなよ!!!」

頬に零れ落ちる涙は熱くて、消えゆく命の灯を蘇らせようとしているみたいに熱を帯びている。
薄れゆく意識の中で懸命にその声を頼りに瞼を上げれば、彼は驚いたように瞳を見開いた。

「な…かないで、よ」
「っ…泣いてねぇ!!!」
「ねぇ、笑…って…」

持ち上げることすら容易に叶わないこの身体。
弱々しく上げた腕を骨張った掌が力強く手を包む。
焼けそうなほどに熱いこの掌に、いっそこのまま焼かれてしまいたい。
それでも絶え間なく降り注ぐ熱い熱い涙にふと唇が緩む。

「私…―――の笑顔が……いちばん、好き…だよ」

大好きだよ。ずっとずっと。
出逢った日から今日までずっと。
いつもいつも素直になれなくて、言えなかったけれど。
この想いを伝えられたことの方が、少なかったけれど。
その笑顔にずっとずっと、救われてきたんだよ。
だから、笑って。
最期は貴方の笑顔を忘れることすらないように、存在すべてを焼きつけて―――逝きたい。

「…いやだ。逝くな…―――逝くな、逝くなよ」

掠れたその言葉が耳に木霊して、悲鳴のようなその声が意識がなくなった後もずっと響いていた。
何度も何度も焦がれる度に呼び続けたその名前。
声が枯れても尚、呼ばれ続けた―――この名前。

「ねぇ、今度は…今度、出逢ったらずっと…ずっと、一緒にいよう?」

側にいることが叶わない身分だったから、なんて。
そんな理由で離れている時間が長かったことを悔やむくらいならば、身分なんて関係のない時代でもう一度、貴方に出逢いたい。
そうしてずっと、飽きる程に一緒に笑い合いたいね。

「だから、待ってて―――…」
「…―――っおう」

つ、と流れた涙が頬を伝って、地へ落ちる。
ふわりと力の抜けた腕を抱き締めて、彼は力なく口許に笑みを模った。

「…ずっと、待ってるから。早く帰ってこいよ」



終わらない想いを
約束しよう


***
prologue.

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