揺れる草木の音が妙に大きく耳に入ってきて。
繋がった掌以外は肌を撫でていく風にひんやりと冷たくなっていった。
ゆっくりと辿る路は、沈黙と共に歩んでいる所為かいつもより長く感じて。
視界の端に靡いて見えた桜色に重く溜まった息を気付かれないように静かに吐き出す。

 (―――…そんなんで尾けてるつもりかよ)

引いたままの手に視線を移せば、ルーシィは涙に濡れた頬を隠すように顔を伏せていて。
時折すん、と鼻を啜る音が聞こえる度に、湧き出る想いを押し殺した。
自分にとって大事な仲間であり、大切にしたい少女であることを思い知らされるようで。
ぼんやりと眺める夕陽が沈んでいく様に重ねて渦巻いた感情を閉じ込める。
いつの間にか辿り着いた部屋の扉を慣れたように開ければ、ぱたんと閉まった音にルーシィの肩が揺れた。
首を傾げて声をかければ、ルーシィは困ったように笑いながら言葉を紡いで。
たどたどしく会話をしようとする仕草に思わずゆっくりと金糸を混ぜる。

「あの、ありがとね。送ってくれて…その…」

遮るように掻き混ぜた髪をくしゃりと撫でて。
からかうように笑みを浮かべれば、漸く安心したようにルーシィが笑った。
いつもの空気になってきていることに安堵して、自然な流れで泣いていた理由を問おうと口を開いた瞬間、かたんと小さな音が耳に入る。
思い浮かんだ桜色を確信して、窓へと向かえば案の定壁をよじ登ろうとしているナツの姿が視界に映った。
後に倣おうと近付くルーシィを片手で制して、無造作に窓を開ければ予想外だったのかナツの顔が露骨に歪む。

「お前なぁ」

言ってやりたい文句は山ほどあった。
無自覚に独占するだけなら余計なことはするな、とか。
もう少しルーシィのことを考えてやれ、とか。
そのどれもが自分の想いと相反することに溜息一つ。

「なんで追いかけて来たんだよ」

静かに投げかけた言葉は、そのままナツと自分の気持ちを図るためのものだったのかもしれない。
もしも、わかっていて噛み付いてくるようならば、この場を任せてもいいと微かに思った事実に苦笑しかけて、言い淀んだナツへ一言。

「……今日はやめとけ」

恐らく、ただ本能的に追いかけてきたに過ぎないのだろう。
それが何故なのか、なんて。
アイツが気付いた時には、きっと自分の想いが終わる時。
それならば、わざわざ教えてやる必要なんてない。
反論するように息を吸い込んだナツを横目に話は終わりとばかりに窓を閉めて。
溜まった想いと共に長い息を吐き出した。

「…グレイ?」

不思議そうな声で呼ばれて振り向けば、涙の面影が揺れる。
空気が和らいでも赤く腫れた目尻はまだ治まっていなくて。
蠢いた胸の内を隠すように小さく呟いた。

「―――…気にすんな」
「え?」

想いが滲んだ声は、掠れて響いて上手く出ない。
届かなかった言葉を打ち消すように「なんでもねぇよ」と伝えれば、金糸がことりと流れ落ちる。
話の続きとばかりに話題を変えれば、忘れていたのか驚いたような声を出して。
ううん、と考えるように唸ったかと思えば、誤魔化すような笑みを浮かべた。

「…なんとなく、急に―――寂しく、なったのかな」
「へぇ…なんとなく、ね」

ギルドの新人だからとか容姿がかなり好みだとか。
守ってやりたい、と思う理由はなんだか違う気がする。
これを恋と呼ぶのか、愛と呼ぶのか。
らしくもない考えに盛大な溜息を吐き出して、考え過ぎた事柄全部を放棄するようにソファへ寝転がった。

「…俺はもう疲れた」
「はいはい、なにか淹れるわよ」

喉が渇いたと零せば、くすくすと楽しそうに笑ったルーシィが台所へと足を向けて。
その背をじっと眺めて、かちゃりと鳴った食器の音に耳を傾けながら目を閉じる。
きっとこの想いに気付いているのは自分だけ。
溜息交じりに毒づいて、視界を覆いながら思考を冷やした。



優しいね、なんて
揺れた想いが溢れ出す


》to be continue.
***
[3]の続きで[4]のグレイ視点。
擦れ違いがテーマだからってことで三者三様の視点という複雑な展開をしている所為か自分でもだんだんわからなくなってきてます。読みづらくて申し訳ない。

一応、次回からまた話が進む予定。

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