揺れる漆黒が金糸と混ざって。
手を繋ぎ合って離れていくふたりの距離は、そのまま今の自分との間に出来た溝のようで。
確かめるため、と追いかけた先で言い捨てられた言葉。
「やめとけ」と閉め出されて素直に帰ることなど出来るはずもなく、数歩進んだところで足を止める。
目尻を濡らしていたルーシィの顔が眼に焼き付いて離れない。
なんで泣いてるんだとか。
どうしてグレイと一緒なんだとか。
いつも側にいるのは自分なのに何故今日に限って自分じゃないんだとか、まるで言い訳のように浮かぶ文句は沢山あって。
それでも、こんなに近くにいて触れられない距離を感じることに比べればすべてがどうでもよかった。

「―――っなんで…俺、じゃねぇんだよ」

諦めきれずに零れ落ちた声は弱々しく、闇夜に掻き消える。
理由なんて本当はなくて、思わず出てきた本音にはっとした。
けれど、気付いた名もない想いを抱いてもう一度覗いた先に笑顔があることが怖い。
冷静で理屈っぽくて、仲間想いで細かくて変態で―――面倒見のイイ奴。
相性が悪くたって実力は認めている。
ルーシィの他愛もない話にも最後まで付き合うし、買い物だって嫌々ながらも荷物持ちに行ってやったり、チームで魔物退治に出掛ければ暴れていて気付かない危険からさりげなく守っていたり―――今までだってずっと、あいつはルーシィの側にいた。

「ナツがルーシィを女の子扱いしないからじゃない?」

ぽたりと垂れてきた汗を乱暴に拭うと的を射たような答えが不意に耳へ入る。
振り向けば、ふわふわと翼を広げたまま困ったような複雑そうな表情のハッピーが「今までずっとそうだったからだよ」と追い打ちをかけるように淡々と告げた。

「女の子扱いって…ルーシィの柄じゃねぇだろ」
「柄だとかそういうのは関係ないでしょ」

忘れてた、と思いながらも反射的にそう言い返せば、先程まで張りつめていた空気が緩んだことを感じたのか安心したようにくるりと回ってハッピーは地面へと降りる。

「でも知らなかったよ」
「あん?」
「ナツもルーシィのことが好きなんだね」
「…俺も?」

くふふ、と仔猫は愉しそうに笑うときょとり、と首を傾げて「グレイもでしょ」と事も無げに言い放った。
詰まった声は喉元で突っかかったまま呼吸も止まって。
どくどくと鼓膜に響く心音にくらりと眩暈がする。

「い、つから…だよ」
「ニルヴァーナを壊しに行った時、グレイに化けたジェミニがルーシィについて`ルックスはかなり好み、少し気がある`って言ってたらしいよ」

そんなこと、記憶にない。
名もない想いは形を成す為に蠢いて、唐突に飛び込んできた衝撃に崩れ落ちた。
「あ、でもナツは酔っててそれどころじゃなかったね。オイラもだけど」なんてあっけらかんと笑うハッピーの声は勿論聴こえていても脳まで辿り着くことはなく、働かない思考の隅でただひとつ。
瞼の裏に焼き付いたルーシィの笑顔だけを思い浮かべる。



知らなかった
知ろうともしなかった


》to be continue.
***
Absurd Lovers:ゆーく様より頂戴したナツside`Cluck`の続き。

ナツが自分の気持ちに気付いていないことを知らないが故に中途半端な独占欲を目の当たりにしたハッピーは無邪気だからこそ残酷。

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