視界の端に映る金糸がゆらゆらと揺れて。
弾けた炎に混ざる生温い風を肌で感じながら目の前の桜色も同じ方角を意識していることに気付く。
苛々と湧き出た感情と無意識に押し殺した想い。
小さく舌打ちをして口を開いた瞬間、勢い良く身体が吹き飛ばされた。
咄嗟に上げた眼前には鮮やかな緋色が靡いて。
背中を伝う冷や汗が身の危険だけを訴える。
漸く視線を戻した頃には、捕えたかった姿は既にいなくなっていた。
脳裏を過ったのは、憂いを帯びた横顔と今にも泣き出しそうに結ばれた唇。
溜息一つ、ゆっくりと身体を起して扉へ向かえば、腕を組んだエルザにシャツを手渡される。

「グレイ、服を着ろ」

受け取ったシャツを無造作に着ながらギルドを後にして。
しばらく進めば、危なっかしく堤防を歩いている姿が見えてきた。
いつも共に歩いている星霊の姿がないことに疑問を覚えながらも歩調を緩めずに近づけば、呆気なくその距離が縮まっていく。
普段は真っ直ぐに前を向いている顔は伏せられていて、様子がおかしい。
声を掛けようと伸ばした腕の先で小さく息を飲む音が聞こえて。
触れる寸前にその名を呼べば、ぴくりと華奢な肩が震えた。

「ルー…シィ?」

同時に、考えるより先にその髪を押さえつける。
焦ったように不服を訴える反応を望んで、触れた金糸は儚げに揺れた。

「ぐれ…っい」

宙に散った涙に胸の内で舌打ちをして。
出来るだけ優しく、零れ落ちる金糸を掬っては撫で続ける。

(泣いてんじゃねぇよ)

苦々しく毒づいた言葉は飲み込んで。
懸命に震えを隠すその身体ごと腕の中へ引き寄せて。
言葉を紡ごうと息を吸い込めば、遮るように握られたシャツの裾。
脳裏に浮かんだ存在を打ち消すようにゆっくりと抱き締めて。
怯えるように縋るその背中を静かに宥めた。

「ばーか…考え過ぎだ」

届かない想いを綴る手紙は強がる姿を保つためだと思えてならない。
それでも無理矢理振り向かせるつもりなんてないし、楽しそうに笑っているならそれでいい。
側で笑わせてやることが叶わなかったとしてもこの想いを変える気なんてない。
ただ、いつまでも泣かせるだけなら―――意識したことにさえ気付かない奴に譲る気はない。
背に感じる熱い敵意を誤魔化すように腕の力を強めて。
とんとん、と撫でるように前へ向くよう促す。

「ほら、送ってやるから…帰ろうぜ」

赤く滲んだ目許をなるべく見ないように手を取って。
引かれるままに緩く進める歩みに小さく息を吐き出した。
夕暮れの風が生温く肌を掠めて、冷たかった掌がじんわりと熱を帯びる…―――。



泣かせたくない
そう強く想ってしまった


》to be continue.
***
ナツルグレにしようと思っているなにかのグレイ視点。
取り敢えずここまでが3ベクトル擦れ違い。
それぞれの感情の動きが擦れ違って喰い違っている様が伝わっていればいいな。

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