甘い香りが鼻先を過って、釣られるように意識が匂いを追う。
首を廻してその姿を捉えようとした瞬間、強い衝撃が頭に響いて。
緋色が視界を覆ったかと思えば、鬼のような形相が迫ってきた。

「やめんか!!!」
「―――っ痛ぇ」
「お前たちはいつもいつも…」

がつん、と殴られた頭を押さえて見上げれば、当然のように説教を開始するエルザ。
溜息混じりにそれを聞き流していると、ぱたん、と扉が閉まる音が小さく響いて。
やけに寂しさを滲ませたその音が胸をざわめかせる。
探すように視線を巡らせても、甘い香りだけが残っているだけで映し出したかった金糸は既にいなかった。

「あー…俺帰るわ」

気怠そうに隣でグレイが立ち上がって。
残り香を辿るようにゆっくりと扉へ向かう。

「グレイ、服を着ろ」
「うぉっ!?」

いつもと何も変わらないやりとり。
けれど、どこか違和感を感じさせる空気が漂って。
茫然とシャツを羽織って出ていくグレイに言い表せないような焦燥感を感じて。
それが何故かなんて考える間もなく、過る不安を振り払うように立ち上がった。

「俺らも帰ろーぜ」
「あい!」

当たり前のように通い慣れた道。
柔らかく靡く甘い匂いはゆらりゆらりと漂っていて。
その存在が近いことに自然と頬が緩む。

「あ!」
「あん?」

唐突に叫ばれた声に視線を戻せば、小さな人影がふたつ。
重なるように動いて金糸が靡いた。
緩んだ気持ちが急速に蠢いて、息が詰まる。

「あれ、グレイとルーシィじゃない?」

でぇきてぇるぅ、と愉しそうに笑うハッピーの言葉を上の空で聞きながら遠ざかっていく距離に足が動かなくなった。
気付かない内に軋んだ想いの欠片が崩れ落ちて。
感じた焦りの正体が想いを帯びて名がないことを嘆く。
この想いの名を知っているグレイと知らない自分の差がどうしようもなく遠いことだけ―――唯只管に魅せつけられた。



何故そんなことに
今更気付くんだろう


》to be continue.
***
擦れ違い3ベクトルを作り上げようと思う。ナツ視点。
ナツルグレの予定だけど、現段階ではグレルナツ。

Absurd Lovers:ゆーく様よりこの後のナツside`Cluck`を頂戴致しました。

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