ナツはギルドのど真ん中でテーブルに陣取り、暇を持て余していた。

何杯目かのファイヤドリンクも底をつき、誰かにケンカでも吹っかけようかと辺りを見渡す。

けれど思ったのは一瞬で。

(そんな気分でもねえし…少し寝るか)

テーブル突っ伏し仮眠を取ろうとしたその時、パタパタと足音が聞こえた。


「ナツ、おはよう。ルーちゃんは?」

「…レヴィか。ここには居ねえぞ」

「だから聞いてるんだけど。知らない?」

「……いあ、知ってるけど」


ルーシィがここに居ない理由を思い出し口を尖らせてそう言うと、レヴィにくすりと笑われる。


「教えんのやめるぞ」

「な〜んか不機嫌だね。ルーちゃんが居なくてつまんないの?」

「べ、別にそんなんじゃねえし!」


強めに否定してみても、レヴィのにやけた顔つきに居心地が悪くなる。

結局「今日は小説書くから家に缶詰めなんだとよ」と教えてやると、レヴィが少し困った表情で持っていた本に視線を落としたので、首を傾げて視線を向けた。


「その本がどうかしたのか?」

「ルーちゃんに頼まれてた本なんだけど…うん。明日渡せばいっか。ありがとね」

「よし! 俺が届けてやる」


そう言ってレヴィから本を奪い、ギルドを後にした。

さっきまでの気分が消え失せ自然と歩調が早まる。

昨日ルーシィは明日は来るなと言ってナツとハッピーを追い出した。

でもこれなら堂々と遊びに行けるし、行ってしまえばこっちのもんだ。

にしし、と笑いながらルーシィの部屋に意気揚々と向かった。








カタン、と音を立てて窓から侵入すると、机の前で腕を組む後ろ姿が見える。

こちらに振り向く素振りも見せずに唸り続けるルーシィにきょとんとする。

いつもみたいに、蹴りが飛んでこない。

別に蹴られたい訳ではないので、まあいいかと思い本を掲げて声をかけた。


「よお、ルーシィ」

「ひっ!!」

「ひっ、て何だよ。相変わらず面白いやつ」


言いながら近づくと、視界の外からルーシィの足が飛んで来て強かに壁に叩きつけられた。


「ナツ! 何でここに居るの!?」

「痛ってえな、何だよ折角本持ってきてやったのによぉ」

「本?」

「おう、レヴィから、」

「レヴィちゃんから? あ、その本! ありがとうナツぅ」


コロッと態度を変えて両手を差し出してくるルーシィに、意地悪な気持ちが沸々とわいてきた。

いつもは。にっこりと笑って嬉しそうにしているルーシィを見ると、こっちまで楽しくなる。けれど今日のは明らかにレヴィの本が読める事が嬉しくて笑っていて。


「あーあ。酷ぇなー。ルーシィが喜ぶと思って来たのになー。いきなり蹴りかよ」

「ごめん、ナツ! 許して? 後でなんか奢ってあげるから!」


けれど視線は本に向いたままで。面白くなくて半眼でルーシィを見やる。


「ナツってば!」

「……やっぱ渡してやんねぇ」

「はあ? 謝まってんだからいいでしょ! いいから本!」


と本に手を伸ばしてきたから、ナツは本を高く掲げて遠ざけた。


「へっへーん、欲しかったら取ってみろ!」

「ちょ、っと!! ずるい!」


差ほど身長に違いはないが、どんなにルーシィが背伸びをしても本を持つナツの手には届かない。仕舞いにはジャンプまでしてくる。

その様子にナツはだんだん楽しくなってきた。


「ほれほれ、どうした」

「もう! いい加減よこしなさいよ!」

「嫌だね、欲しかったら取ってみろ」

「きぃー! 悔しい!」


そう言うや否やと踵をかえしルーシィが離れていくので、へ?と気の抜けた声が出た。


「何だよ、諦めたのか?」

「ふっふっふ……」


不気味な笑い声とともにくるりと振り返ったルーシィが、ナツに向かっていきなり走り出した。


「おわっ、待てルーシィ!」

「もらったわよ、ナツ!」


助走をつけてナツの体の前で思いっきりジャンプしたルーシィはナツの手から本を奪うことに成功した。が……。


あまりにも勢いが良すぎて、まともにぶつかった2人は大きな音を立てて床に倒れこんだ。
 

「……おい、無茶苦茶過ぎんだろが」

「元はと言えば素直に渡さないナツが悪いんじゃない!」


ナツがクッションの代わりになったお陰でダメージが少なかったルーシィは、お構いなしといった様子で手にした本にうっとりしている。

遠慮もくそもあったものじゃない。


「ったく、こっちは下敷きにされて痛ぇのによ」

「わわっ! ごめんナツ」


今の状況に気付き慌ててナツの上から退き、本を胸に抱いて真っ赤な顔で床にペタンと座りこちらを伺うルーシィに。

起き上がって同じように座り、疑問を投げた。


「今更、何照れてるんだ?」

「て、照れてないし!」

「別に恥ずかしがることねぇだろ」

「だから、そんなんじゃないってば!」

「好きなんだろ?」

「なっ! なんで知って…、じゃなくて! た、ただ、その」


知ってるも何も、いつも一緒に居て気付かない方がどうかしてる。

さらに言えばギルドでも知らない者は居ないだろう。

頬を赤らめ、もじもじするルーシィの瞳にはうっすらと涙すら滲み始めて。

ちょっと苛めすぎたかもと、珍しく反省をする。


「悪ぃ…ルーシィ」

「……い、いいのよ。ナツがこういうのに興味ないの、知ってるし…」


ナツが謝ると、ルーシィは唇を噛み俯いてしまう。

俺にも同じように思って欲しいのか?そこまで、ルーシィは……。

真剣な様子のルーシィを見て、思うままに言葉を口にする。


「本当、おまえ本好きだな」

「……はい?」

「だから、怪力を見せ付けて体当たりしてきたり、俺にも同じように思って欲しいぐらい好きなんだろ? 本が」


何も照れることねぇじゃん、と言いつつ。

自分との時間を奪う本のことは好きになれそうにはないと心の中だけで呟いて。


「ん? どうしたルーシィ」

「――あんたってそういう奴よ」

「あ?って、ぐほぉ!!」


強烈なアッパーを喰らって床に沈められ、目の前のルーシィを見上げると鬼のような表情をして――


「そうよ! 書くのも読むのも大好きなの! 分かるナツ? だから邪魔しないで」

「…俺が退屈になるだろが」

「帰れー!!」

「あい!」


あまりの剣幕に逃げるようにルーシィの部屋を後にした。


***
Hangout:トム様より相互記念に頂戴致しました。

くぁ…床に下敷きにされちゃうなっちゃんと上にべったりくっついているルーシィに既にノックアウトにされました。

「―無茶苦茶過ぎんだろが」に胸の高鳴りが隠せません。
これが恋ですか、そうですか。
「なんで知って…」とか口を滑らせちゃうルーシィが愛おしくて堪りません。
これが愛ですか、そうでしたか。

レビィちゃん何気に好きなのでなんだか冒頭からによによしちゃいました。
無自覚にルーシィ大好きななっちゃんが愛おしくて仕方ないです。

翌朝はあれですね。
「ルーちゃん、昨日ナツとはどうだったの?」
「ふぇ?な、なんでっ」
「えーなになに、その反応。詳しく教えてよ」

にやにやしながらえいえいってルーシィとレビィはガールズトークなんかしちゃうんですね。
その様子見て、結局男だろうと女だろうとルーシィ独占されるともやもやしちゃう無自覚ナツだったら悶えて包まれる。シーツに。
埋められてもいいかもしれない。

よろしいどころか両手をあげて持ち帰らせて頂きましたっ。
こちらこそありがとうございます。
この恩はいつか倍にして鬱陶しい程の愛として送りつけに行きます←嫌がらせかもしれない
こんなゆんですが、どうかこれからも宜しくお願い致します!
ありがとうございましたーーーっ!!!

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