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進撃 (2/8)
記憶の片隅

カップリング要素有。
ご注意ください



「どの位覚えている」
「そうですね…まあ漠然とした感じて、はっきりとは。まあ記憶なんて劣化していくものですから」

教師と生徒の二人以外誰もいない教室の片隅で、女生徒はやる気のない声で答える。なんの問題も、疑問もない。かつて二人は英雄とまで呼ばれた存在で、記憶を持っているのだ。

「兵…先生はどのくらい覚えていますか?」
「お前と大差ないな。巨人ぶっ殺して、最後に死んだ」
「他のこと何かないんですか。ほら、仲間の事とか」
「有りすぎて言うことがない」
「そこに私も居ますか?」
「ああ。お前の記憶にも俺はいるか?」
「当たり前じゃありませんか」


かつて人類最強と呼ばれた男、リヴァイはやはり人で最後はあっけなく死んだ。片やリヴァイの目の前の女生徒も人類最強に迫る存在とまで言われてたがリヴァイよりもあっけなく死んだ、戦場で。

「いつからある」
「そうですね、いつからと言われると…物心ついたくらい、でしょうか。先生は?」
「何年か前だな。最初は変な悪夢だと思っていたがな」

校庭からは部活をしている生徒の声が聞こえる。
リヴァイには何人かここの生徒に見覚えがあり、それは今世では初対面だが前世では知っている存在。最初目の前の女生徒もその一人だったが、ノート提出の際に昔の綴りで今は使われていない文字で「リヴァイ兵長お久しぶりです。私の事、覚えていますか?」とかかれていた。
そのメッセージに心臓が止まる重いをして、それに返信を急いで書いて、あれほどノートの返却が待ち遠しかったのは初めての事だった。

「私の名前、聞き覚えありませんか?」
「名前・スミス…妥当に考えるならエルヴィンが思い当たるな」
「私の父です。でももっと驚くのは母ですよ」
「…まさか、ミケか?」
「ああ、そんな可能性もありましたね。生まれ変わると性別も変わる可能性ありますし。むしろそんな考えに行き当たった兵長が恐い。残念ですがミケ分隊長は叔父で、母はなんと…ハンジ分隊長です」
「!?」
「ちなみに私の双子の片割れはライナーです。ラグビー部の」

ラグビー部のライナーといえばエースだ。クラスの授業は受け持ったことはないが、ガタイがいいので目立つし、成績も悪くなく面倒見もいいので何かの役員になることもしばしばだ。双子がいるとは聞いていたが、まさか目の前の女生徒の片割れだとは思わなかった。もしかしたら美女とまではいかないが、女と野獣コンビだ。

「ライナーは何も覚えていません。母も、父も」
「…そうか」
「誰も覚えていないと思ってました。私だけが、私しか覚えているんだなって」
「俺もだ。俺一人だけ覚えていて、きっと誰もわからない、覚えていないままで…覚えた奴になんてあわないと思っていた」

ただ孤独だった。と二人は告白をする。
周りは今を生きて、自分は過去に捕らわれて生きている。
年相応に笑ってフザケたい。いや、それは出来ていた。しかしそれを年相応と言って良いのかが解らない。
名前は物心付いときなら尚更だろう。数年前に思い出したリヴァイには恐らく想像がなできない。リヴァイには年相応に過ごした時間が名前よりも何倍もあるのだから。

「エルヴィンとハンジとミケは元気か?」
「ええ、元気ですよ。父は過去の壁と調査兵団の研究者ですし、母は生物学者でまた巨人です。叔父は意外な事に香水メーカーに勤めてます」
「…………個性的だな。いや、当たり前と言うべきなのか」
「私としては兵長が先生している方が驚きましたよ。だって、あの人類最強が教鞭とか」
「兵長じゃねえ、先生だ」

睨めば名前は「すみません、つい癖で」と背中を丸める。その姿は前とは違うというのが目に見えた気がした。
前の名前であればただ笑って「すみませーん」と軽く言う。
一応はその時代相応と子供という事なのだろう。教師に謝る姿はこの校内の生徒と違う所は何処にもない。

「…私一人で正直寂しかったんですよ」
「…そうだろうな」
「だって分隊長も団長も、誰も」
「自分だけが覚えている。その孤独は俺にもわかる。いや、わかった。しかしアレだな、よく黙っていられたな」
「………まあ、色々ありましたし?」

さっとリヴァイの目から逃げるように目が泳いだ名前。
触れてほしくないのか、逃げる様子は前と同じだ。成長していないと思うべきか、それとも進歩がないと言うべきなのだろうか。懐かしいと思う反面、そこは問い詰めるべきかを迷い、そこは触れないのがいいと判断する。
今は調査兵団員でなければ兵士でもない。ただリヴァイは教師で名前はその学校の生徒なのだ。

「まあ、色々あるよな」
「色々ありますよ」
「双子はどうだ」
「ライナーですか?まあ、今の彼に文句はないですよ。双子の片割れですし」
「過去の云々は触れないのか」
「今のライナーは前のライナーとは違うと私は結論しています。分隊長二人も、団長も。延長線に近いのは私と兵…先生だけです」
「片割れはラグビーして、お前なにしてるんだ」
「家庭科部です」
「………似合わねえ」

言うと思いました。と名前は笑う。
リヴァイは心底驚いて普段目つきの悪い目が本人でも驚くほど見開かれた。
名前と言えば何でも程々出来るが、巨人との戦い以外は目立って良いところがなかった。掃除もそこそこ怒られない程度で料理も不味くはないが美味くはないというそこそこ具合だ。その名前が家庭科部とはいったいなにが、いやどうしたのだ。

「私、今世は女の子をしようと思ったんです」
「おんなのこ?」
「先生の口から女の子とか聞くと笑っちゃいますね」
「教師舐めんなよ」
「舐めてませんよ…ほら、だって前は女捨ててましたから。今回は女の子をして、結婚して子供産みたいなって」
「………」
「エルヴィン団長にもハンジ分隊長にも孫をですね」

前の私が、私達が出来なかった事をしたいんです。前を覚えているからこそ。
願うように言葉にしたそれは、確かに覚えているからこそ出たのだと理解した。
壁外に行く調査兵団に入ったら男も女も関係ない。いつ死ぬかも解らない地獄で色恋なんて捨てたような者達だ。
誰が誰を好きだなんて思うのは大半が夢で終わる。特に女は調査兵団に居るというだけで嫁に行きにくかっただたろう。もし話が来たということは兵団を辞めるに直結していたのだ。
そんな中で名前はただ巨人と対峙していた。

「…嫁のもらい手あるといいな」
「本当ですよ。私今のところ誰もいませんからね。女子力上げておいて、良い人見つけないと」
「お前が女子力とか言うと笑えるな」
「笑っていただいて結構です。私だって自分で言って笑えるんですから。私が女子力とか、夢はお嫁さんとか…本当馬鹿みたい」
「…平和な証拠だろ」

そうですね。と賛同する声色は学生とは思えないほどの重みを帯び、校庭の生徒の声が響く。
学生というものになったという感覚はまだなれないのだろう。リヴァイも記憶を戻してから今世が夢物語の様な気がしてならない。ましてそれ以上に記憶を早く戻していた名前にはもっと長い現実かどうかもわからないものだろう。

「夢があっていいじゃねえか」
「夢なんてみるだけでよかったんですよ」
「夢がねえな」
「夢なんて所詮現実には叶わないものなんです」
「なら叶えればいい。今なら出来るだろ」
「そうですね…相手が居ればいいんですけど」
「………」
「あの地獄の記憶がある私としてはですね、そんじょそこらの男じゃ駄目なんですよ」
「…ほう?」

やけに真剣な眼差しで力説を始める名前。それはまるで過去の作戦会議を彷彿をさせる。
名前は名前なりに優秀な人材でもあり、簡単ではあるが作戦をたてる立場にもあったのだ。

「まずこの時代の男は軟弱なんですよ」
「それは同感だ、女も軟弱かつ根性がない」
「わかります。この前の体力測定なんてあのやる気のなさ!私呆れましたよ」
「それは女子にも通ずるぞ、か弱い女気取りが何人もいた」
「なにが私貧血〜なんですかね。まず貧血なら鉄分の補給をして有事に備えるべきです。前からわかっていた事に対しての対策がまるでなっていません」
「男のあの砲丸投げの記録はなんだ、身体測定の時のヒョロイ体つき」
「私の方がいい記録だしますよ」
「まったくだ」
「おかげて運動部からの勧誘がひっきりなしで困ってます」
「お前のような存在は俺の部でも欲しいくらいだ」
「あれ、先生部活の顧問でした?」
「物理部だ」
「ぶ!」
「どうやら痛い目をみたいようだな、物理的に」
「そういう物理的じゃないですよね!?普通理系の物理!」
「冗談だ」
「先生の冗談はどこまで冗談かわかりません」
「半分本気だからな」
「兵長相変わらずですね…」

リヴァイが物理部顧問というのは名前にとって衝撃的だったのは事実だろう。
あのリヴァイが、だ。まだ剣道やフェンシングとか言う方が信憑性が高い。一応は物理の教師をしているだから不思議ではないが違和感はある。物理部なんてあったのも驚きだ。

「家庭科部の顧問のペトラ今度寿退職だな」
「オルオ先生と職場結婚ですね。まあ前世からの付き合いもあるので不思議ではないですが。あの二人がなーって気持ちにはなりますね」
「次の顧問知ってるか?」
「いえ」
「俺だ」
「またまたご冗談を」
「そう思うだろ。俺だ。物理部と兼部ならぬ兼顧問だ」
「……兵長がクッキー作ったりマフィン焼いたり、ボランティアしたりするんですか?」
「…そうなるな」
「似合わないですね」
「何を言う、俺は家庭的な男だ」
「うーわー」

冷ややかな目線を送る名前。そんな時に名前の携帯がバイブレーションで着信を知らせる。この学校では放課後になれば携帯の使用は許可され、自己判断での使用だ。

「あ、父さん…」
「出ろよ。俺のことは気にするな」
「でも…」
「オヤジからの電話にでないなんて思春期か」
「むしろライナーが思春期であまりに私が苛ついて投げ飛ばしてからライナーに怖がられています」
「それでこそ名前だ」
「…ですね。もしもし父さん?どうしたの」

名前の携帯から聞こえる男の声はひどく懐かしく、しかし初めて聞くような違和感が混ざる。
名前の口からでる「父さん」という単語にはどこかよそよそしく、言い慣れていないような気がする。そこから聞こえてくる会話は親子の会話で、リヴァイは外部の人間であるという現実が見える。
そうなのだ、もう誰とも仲間ではない。懐かしい団長も分隊長も今は赤の他人なのだ。目の前のかつての部下は今は生徒。

「うん。じゃあね」
「…ちゃんと親子してるんだな」
「…一応。思春期特有のホニャララはありますけど。これは前にできなかった一つですね」
「で、何の用事だったんだ?」
「ちょうど帰るから迎えに行くという電話です」
「片割れは」
「部活があるので。私は忙しいわけでもないので…最近仕事ばかりだったという負い目もあるのかと」
「あのエルヴィンが父親か…しかも名前の父親でハンジがな…」

大きな溜息をもらしたリヴァイに名前は同感する。記憶さえなければただの家族だったはずなのに、と。極普通の学生で、教師に影で悪態をつき変なあだ名を付けて笑って。年相応に恋もしていたのではと思うこともある。

「兵長、今度団長にあってみますか?」
「…は?」
「今度研究の発表会のようなものがあって、私も手伝いに出るんです。立体機動装置を私が装着して模擬演技するんですよ」
「……考えておく」
「あとその演技できるのが私しかいなくてですね。もし興味があるなら……」

まさかそれが目的なのか?とリヴァイは名前を嫌な目で見た

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