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進撃 (1/8)
留まる巨人

『初めましてエレン・イェーガー。私の名前は−』

そう言って差し出された手は女性にしては柔らかさの欠片もなく、ただ無骨とした印象をエレンに与えた。


「エレンの同期の104期生の上位者って結構調査兵団に入ったんだね」
「え、あ…そう、みたいですね」
「私の時なんて私しか入らなくてさ、いいなー。私も仲間が沢山欲しかったー」

エレンの正面にだらしなく座るその姿は勇ましさがなく、手に持つカップで遊んでいる。
髪は無造作に束ねられ、手入れをしているようには思えず艶が寂しい。

「名前さんの時は居なかったんですか?」
「上位者で調査兵団に入ったの私だけだったよ。他の奴らは憲兵団で。まあ妥当だよね」
「…じゃあなんで名前さんは調査兵団に入ったんですか?」
「んー、秘密」
「え」
「女はさー、ちょっと秘密がある方が魅力的でしょ?だから秘密」

唇に人差し指を当てて秘密と言う割には色気が少し足りない気がする。
名前・名字という人物は不思議と表現すべきなのか、子供のようだと表現すべきなのか。
大人びた行為をするようで子供っぽく、子供のような残忍さで大人の様に慰める。
巨人の討伐数はリヴァイ兵士長に迫る勢いだという。その話を本人に聞いたところ「え!やだ、そんな噂になってるの?いやー恥ずかしいなーいやいや」と笑って誤魔化された。

「エレン、兵長が…あ、名前さん!またそんな髪の結び方して!」
「ペトラ、エレン呼びに来たのに私に構っちゃ駄目だよ」
「大丈夫です。兵長が用事があるのはエレンと名前さんなので」
「うえー」

さあ兵長の所に行く前に結い直しますよ。とどこからかブラシがでる。
ペトラと名前はこのリヴァイ班の中で数少ない女性で仲がいい。この少ない班で仲違いも難しいのかもさろないが、女は恐いとあの訓練兵の時にエレンは学んでいる。
慣れた手つきで髪はブラシにかけられ艶を戻し、いかにも潔癖症なリヴァイ兵長が好みそうな頭へと変化をとげ、名前は少し不満そうにする。言っておくが名前はリヴァイ兵長を嫌っているわけではない。

「さあ出来ましたよ」
「んーありがとう」
「もう名前さんは討伐する時だけ勇ましいんだから。その1/3でいいから普段にまわしてくださいよ」
「ねえエレン、私が常にあんなんだったらエレンだって嫌だよねー?」

『もし人類に牙を向くなら私が躊躇いなく殺してあげる』
ただ冷たく、温度もない声と顔が蘇ってエレンはサッと顔色を悪くする。
どうしたの?とペトラに声をかけられてやっとエレンは反応を示して「お、おれは今の名前さんが好きです…」と怯えた様にすると名前は笑い出した。

「だってペトラ。エレンはあの私が恐いんだって」
「いや、そうじゃなくて…」
「私は凛々しい名前さんが好きですけど」
「ほら、行こう。怒られるのは嫌だし」
「名前さんがちゃんとしてくれていればよかったんですっ」

寄り道しないでくだいね!とペトラが怒った口調で見送る。
エレンと名前が居た部屋からリヴァイがいる部屋までは距離はそう遠くない。この古城を使うようになって急拵えで掃除したために使える範囲がまだ狭いのだ。

「そう言えばエレンは何歳だっけ」
「15です」
「じゃあ私と一緒で12で志願なんだ」
「え、名前さんも12で訓練兵なんですか?」
「うん。自由になりたくて」

コンコンとリズミカルなノック音を立てて「名前・名字、並びにエレン・イェーガーです」とはっきりとした発音が耳心地いい。
エレンの疑問は口が出るタイミングを外し、ただ名前の言葉に続いて「失礼します」と言葉にする。
入室許可が出る前にドアを開けるのも名前とってはいつもの事なのだろう。眉間にしわを寄せたリヴァイが深い溜息が聞こえた。

「いい加減許可が出てから入れ」
「あ、ついウッカリ」
「手前はうっかりフォークとスプーン間違えるのか」
「まさか」
「………」
「え?私なにか…変なこと言った?」

エレンに助け船を求めるように名前は伺うが、エレンは沈黙する。リヴァイの例えもどうかと思うが、ここで変に名前のフォローにまわればリヴァイに睨まれるのは解っているからだ。理不尽な事で怒られたりはしないだろうが、やらないに越した事はない。それに名前よりもリヴァイの方が立場的に上であり、その上下関係から見てもここはリヴァイについて間違いはなさそうなのだ。

「…まあいい。二人に報告書を書けとお達しだ」
「え」
「え。じゃない。名前はエレンについて、エレンは巨人化について出せとよ」
「俺もですか?」
「巨人化についてはハンジが主に研究している。エレンは主観的な観点からだと。自我の持ち方でも書いておけ」
「エレンがちゃんと自我もってたら私達解散かな」
「それが望ましいとでも最後の締めに書いておけばいいだろ。自分の班に戻りたいならな」

命令の書かれた書類が投げるように渡される。しかも丁寧に宛名がついているではないか。
エレンが名前の書類をちらりと覗くとエレンの渡された書類より数枚多そうだ。

「名前さんの俺より多くないですか?」
「エレン何枚?」
「俺は二枚です。一枚目に俺の名前があって、命令は二枚目」
「なんでそんなに少ないの?狡い…交換、しない?」
「馬鹿なことを言うな。名前のヤツは後ろにお前の部下の報告書がついているんだ」
「え、あ、本当だ」
「リヴァイ班に入る前の…ですか?」
「そうそう。私こう見えても班長だったんだよ!」

よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに名前の目が光る。
リヴァイに並ばすとも入団する、もしくは志願していると名前の名前は意外と耳にはいるのだ。人類最強に迫る勢いの女がいる、と。

「皆元気かな」
「元気かって、お前この特別班に来て何日だ?そんな心配する日数たってないだろ」
「部下の心配をするのは上司の務めなんです。だって私、エレンが有益無益関係なく次の作戦までの班員ですもん」
「え!?そうなんですか?」
「あれ聞いてないの?」
「名前はこの作戦までの班員だ。それが終われば自分の班に戻る。一応は班長になる人間だ、それが一つの班に二人も要らん」
「そういう事。今年は私の班にも新兵が入るんだー、どんな子かな。楽しみ。嫌われない様にしないと」

確かにリヴァイが居るならば名前までいる必要はないのかもしれない。いくらエレンが危険因子だとしても人類最強と称される人間がいる、そして精鋭がいるのだ。そこまでエレンに戦力を集中させては他の巨人に対する防御が落ちる。
まだ実際にリヴァイと名前の戦闘を見たことがないエレンにとって、未知の領域だが頼もしくもあり恐ろしい存在だと言うことには変わりない。

「…でも、どうして私がエレンの報告書を書かないとなんだろう」
「どうしてって…」
「だって私より兵長の方が適任だと思って。私正確にはこの特別班の仮班員だし…」
「さあな、もしかしたら俺より適任かもしれないと上が思ったんだろ」
「…そうしたら私の所の新兵はエレンか…最初の子見たかったなー」
「どうしてそうまだ分かりもしない事で悩めるのか知りたいくらいだな」

その位しか楽しい事ないもので。と悪びれる事なくあっけらかんと答える名前にリヴァイは眉間の皺が濃くなった。
そんな事には我関せずといった名前は部下の報告書をパラパラと捲っては楽しそうにしている。報告書には普通楽しい事や面白い事はないはずだとエレンは横目で伺い、少し覗くとやはり面白そうな事はない。そしてさっきの名前の言葉から考えて思い当たるのは部下が元気と言うことなのだろう。

「用件は終わりだ。あと掃除は終わったか」
「今日の分は終わりました」
「今オルオとグンタがシーツとタオルの洗濯してますよ。オルオなんて凄い熱心にシーツ洗ってて、あれじゃ繊維ボロボロになるのになーって思ってみてました」
「え、じゃあ教えてあげないと…」
「前にも言ったけど“汚れが落ちないんですよ!!”って怒られてさ」

そんな神経質にならなくてもって思ったけど仕方ないかーって思って。とマイペースに笑う名前にエレンとリヴァイは同じタイミングで溜め息ついた。その溜め息が妙に大きく、リヴァイとエレンが目を合わせるとリヴァイは何とも面白くなそうに目をそらし、エレンは居辛そうに下を向く。

「ようし、報告書終わらせようかエレン。多分二人でやったら早く終わる」
「いや、それは…」
「終わらねえよ。だいたい違う報告書だろ、二人でする意味がまずない」
「もしかしたら私の班員になるかもしれない新兵なのに…ちょっとくらいいいじゃないですか」
「まずエレンの監視は俺の役目だ。俺だから任されたんだ、勘違いするな」
「そうか!ちぇーエレンとはどっちにしろさようならかー。新兵に望みをかける!」

無駄にキラキラとした目でエレンを見つめる名前。いったいエレンに何を望んでいるのか。エレンがその新しく入る兵と知り合いとも限らないし、まして誰が来るのか知らないのだ。
その姿にリヴァイはリヴァイで大きな溜め息を漏らす。リヴァイからしたらその行動が心配なのだろう。噂だがリヴァイがよく名前の面倒を見ていたと聞いたことがある。

「ねえねえエレン。女の子いる?」
「え、ああ…はあ、いましたよ」
「可愛い?」
「……ん、」
「え、なんで黙っちゃうの?」
「いい加減エレンを構うの止めろ。ガキをイジメるな」
「いや、そんな…」
「はーい。ごめんねエレン、反応が可愛くてついつい」
「え、ええええ…!」

うっかり手に持っていた書類が滑り落ちそうになったか寸前で持ちこたえるエレン。
リヴァイは名前に向かって「そうやって構うから嫌われるんだ」と睨み、当の名前は「エレン可愛いから構いたいんですもん」とエレンを軽く無視して話しをしている。

「気にするな、こいつの悪い癖みたいなもんだ」
「…あ、はい…」
「あ、酷いエレン!私の事馬鹿にしたでしょ!」
「してませんよ!」
「俺は馬鹿にしてるけどな」
「どうせ兵長からみたら私馬鹿ですよー」
「実際馬鹿じゃねえか」
「万年二位ですよ、どうせ」
「え、二位で馬鹿なら俺は…」

気にするな、名前の自虐だ。としれっとして言うリヴァイ。名前は笑って気にする様子もない。
名前と話していて一位でなければならないといった性格ではないし、だからと言って落第生でもない。実力は確かでペトラを筆頭に信頼も厚い。

「エレン可愛いなー信じちゃって」
「名前はその馬鹿を直せ」
「兵長酷いです」
「後先考えず巨人に突っ込むの止めたら訂正してやるよ」
「うぐ…っ」
「でも兵長、巨人は駆逐すべき存在で」
「どうしてくれる名前、馬鹿が増えたじゃねえか」

エレンのフォローではない本心がリヴァイに名前共々呆れられ、それはそれは大きな溜め息を賜った。

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