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進撃 (5/8)
留まる巨人if

「調査兵団をやめなさい。今までは優秀だからと多目に見てきたが、その怪我ではもう十分に戦えまい。帰って嫁ぎ先を見つけるから女の勤めに励むんだ」

ほんの数分前の話だ。
私は壁外調査で巨人に遭遇し、いつもならしないミスをおかして大怪我をしたのだ。そして壁の中に戻って治療をし、安静を言い渡されて数時間後に養父がやってきて開口一番に言われた。
勿論私も反論はした。したが…私の言葉は養父には届かず、強制的にやめさせられそうだ。
なぜ私の意思などないように扱われるかは簡単だ。私の養父はこの調査兵団に私が居るからと出資してくれているからだ。その養父に逆らえば出資が望めない。もしくは私を退役させるのにまた高額な金を使うのだろう。

私の父は昔死んだ。母は今の貴族である養父と再婚したのだ。ちなみに母は元気で貴族の生活を楽しんでいる。なんだか父を忘れているように聞こえるが、ちゃんと父を愛してはいる。ただ順位が入れ替わったのだと母はいっていた。
養父もまた母と同じく再婚だ。養父は次男で家督とそういうのは関係無いらしく、好きに生きていくのが心情だ。一応前の奥さまと子供がいらっしゃって、今や私の義理の兄。そのお義兄様は憲兵団に入っている。

こうして書くと、やはり私はその家族が嫌いそうに見えるが違う。
私は私なりに両親も兄も好きだ。
ただ、なんとなく苦手なだけ。
再婚した母も、貴族の父も、優しい兄も。
なんだか居心地が悪い。
多分、貴族という枠と、それに順応する母に馴染めないんだと。

そして私は両親が反対した訓練兵に志願して、憲兵団に入れる成績にも関わらず兄がいるそこには入らず調査兵団に入った。

そしてこの様である。我ながら虚しい。それなら駐屯兵団にしておけばよかった。


「よう、死にたがり。生きているみたいだな」
「なんですかその変な名前」
「初戦から巨人に笑いながら突っ込んで行ってからお前はそんな風に影で呼ばれてんだ。知らなかったのか?」
「そんな陰口、今兵長が言ってはじめて知りました」
「死にたがりのくせに誰にも死んでほしくない班長だもんな。一応は慕われているみたいだな」

座るぞ。と部屋の片隅にあった椅子を引っ張ってきて座るリヴァイ兵長。
一番最初の壁外調査の時、私が入った班の人で、私が巨人に突っ込んで行くから帰ってきて一番最初に叱られた。生存率がただでさえ低い兵団の生存率を下げるな!と殴られた時は失神した。

「私の班員、無事ですか?」
「自分の班員くらい把握しろ。まあその怪我で勘弁してやる。安心しろ、無事だ」
「それで皆は」
「見舞う前に自分の仕事と看護だ」

兵長は?と聞くと「終わってる」と短く返された。流石だ。

「親父、来てたんだって?」
「……はい、来ていました」

怪我したくらいで。と私がちょっと笑いながら言えば、「親なんてんなもんだろ」と嫌な顔をされた。
そして少しだけの沈黙。
多分、兵長は知っているのだ。私が父に言われた事も、調査兵団をやめさせられることも。

「名前…ああ、リヴァイも居たのか、ちょうどいい」
「団長、どうしたんですか?」
「名前、君の父上がついさっき見えられて君を退役させろと言われた」
「…はい」
「エルヴィン、お前それを受理したのか」
「私としても名前という優秀な兵を失うのは痛い。しかし名前を退役させなければ援助を打ち切ると言われた」
「ある意味人質ですね…金持ち怖い…」

父のしそうな事だ。
私に言っても大人しく聞かないことを知っているから、こうしてピクシス指令ではなくエルヴィン団長に言ったのだ。ピクシス指令では私を説得できないと思ったからだ。
確かにピクシス指令は最高責任者だが、面識もなく、ついでにエルヴィン団長がいれば私がいかに優秀な兵で、いなくなればどんな痛手があるかを訴えてくれる。

「あーあ、それならいっそのこと死ねばよかった」
「名前!そんなこと」
「辞めたらどこかの汚い金持ちに嫁に出されるんですよ」
「……」
「東洋人って、ご存じですか?今となっては数が少なくて、一部で高額で取引されるんです。私の本当の両親はそれで、私もそれです。その意味わかりますか?私、売られるんです…知らない男に媚うって、刷りよって、そんな男の子供、孕まなきゃ、いない…わかりますか?わからないですよね…だって、」

ダメだ。涙が溢れて声が震えて、言ってはいけない言葉が出てこようとする。
落ち着いて、私。それを今、二人に言ってどうなる?何も変わらない、変わりやしないんだよ。
だから駐屯兵団にしておけば、ううん。どっちにしろ時期がきたらこうなっていた。私が相手を見つけないと、結局はこうなんだ。

「ごめんなさい…すみません、もしかしたら、怪我のせいで熱がでで、朦朧としているんです、すみません」
「……休め、それがいい」
「そうだな。色んな事が起こりすぎて疲れているんだ。この件は後日」
「はい……」
「なあ、名前。退役が嫌か?」
「いや、です…」
「結婚は」
「リヴァイやめなさい」
「いやです」
「知らないから嫌なのか」
「私を好きじゃないから…私も、知らないから」
「知っていたらいいのか」
「……どういう、意味ですか?」

ちらっと目配せをして会話する団長と兵長。
少し眉をしかめた団長が、睨んだ兵長に負けたのがため息をついて私に向かい、驚くべき事を言う。

「なら名前、この兵団の誰かと結婚したらいい。やめて嫁げと言われたなら、先に嫁ぎ先を決めてしまえ」
「………へ?」
「へ?じゃねぇよ。一回家出ちまえば親父を干渉できねぇたろ。それに貴族様じゃなきゃな」
「だ、だれと…?私、そんな人いませんけど…」
「手っ取り早く、どっちかだろ」

私か、俺か。

怪我よりも頭が痛い。
よし、気絶しようそうしよう。
私がそんな事を考える前に私の頭は考えることをやめて目の前が真っ白になっていた。

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