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進撃 (6/8)
留まる巨人E-if

 
「新婚生活はどうだい?」

ハンジのなんて事のない一言にエルヴィンは一瞬だけ目が泳いだ。
最近調査兵団を辞めた、辞めさせられた名前と団長のエルヴィンは婚約し、現在は生活を共にしているのは皆が知っている。
目立って美人というわけではないが、部下にはそれなりに人気があって辞める時には惜しまれたのも記憶に新しい。

「ノロケ聞いてあげてもいいよ」
「そんなノロケ、話すこともない」
「えー?なんで?ノロケられないと思って言ったのに」
「……」
「なになに?やっぱり言いたいんでしょ?名前料理上手かったよね」
「名前の手料理なんて食べていないさ」
「え」
「名前の実家からメイドが来ていてね、彼女が家事は全てやっている」

ハンジは持っていた書類をうっかり落としそうになったのを寸前のところで握り返した。
調査兵団の中でも詳しいことを知っているのはエルヴィンと分隊長の二人、そしてリヴァイだけだ。
娘がいるからと出資をしていた名前の家。その娘が大怪我をして辞める、辞めさせる理由ができてやっと退役させたのだ。しかし娘は兵士をしていたいし、できるなら調査兵団の援助をしていたかった。そこで悪知恵の働いたリヴァイとエルヴィンが名前に結婚を申し込んだ、というわけだ。事実とは少々違うがだいたいは同じ。

「ま、まあ…料理だけが、全てじゃないし?」
「……」
「ほ、他にないの?」
「ない」
「名前が、何かしてくれるーとか」
「帰れば出迎えがある」
「お!」
「ただし敬礼でだ」
「おふ…」

これに関してはハンジも頭痛がした。
名前が根っからの兵士ではない事を知っている。根はとてもいい子だ、素直で少し変な所もあるけど。

「……名前、元気?」
「ああ。元気だよ」
「変わりない?」
「少し。怪我の影響で体が鍛えられないからね」
「お肉ついてきた?」
「そこは黙秘しよう」

ハンジが胸を持ち上げてここ!というようにアピールするが、エルヴィンはスルーを決めたのか軽く流された。
なんだかエルヴィンは名前の話題は避けたいようで、彼らしくないぶっきらぼうな言い方だ。

「なーんか、うまくいってない?」
「………」
「資金の為の結婚なのは知ってるけど…本当仮面夫婦って感じなわけ?」
「………」
「名前が可哀想」

エルヴィンのデスクをバシンと叩くハンジ。
強く叩きすぎたのだろう、手が痛いのか擦っている。
ハンジにとって名前は可愛い部下だった。無茶をするくせに周りをみている。矛盾しているが事実だ。それに優秀な兵士で、あの怪我さえなければ、自分であったならと何度思っただろう。名前の家が、名前の母親が再婚しなければと思う。しかしその再婚がなければ名前は志願しなかったのも事実。

「あーあ、それならまだ他の男だった方がマシだよ。ミケとか」
「…こう、言っては言い訳がましいが…名前が、固いんだ」
「名前は柔らかいよ!柔軟性あるし、ごつくないし…って、そいうことじゃないのは分かってる」
「私の事は団長としか呼ばない。挨拶は敬礼、部屋は一緒だが…」
「……名前」

名前が可哀想。名前自身が可哀想なのだ。
固い、実に固い。むしろ兵士そのものではないか。なぜ私生活で敬礼なのか。これは無駄に小一時間名前に説教をしたい気分に襲われたハンジ。これはエルヴィンがどうこうレベルではない。

「何をしても団長という。私との会話は全て命令としてとられてしまう」
「名前…君っていう子は…」
「なにも嫌がりもしない。抵抗もしない…」
「嫌がる?抵抗?」

「気にしないでくれ」

エルヴィンの言葉に引っ掛かりを覚えたが、そこはスルーしようと思ったハンジ。一応大人だ。
それよりも問題は名前だ。
いや、行き違いが過ぎるのかもしれない。

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