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進撃 (8/8)
記憶の片隅2

「先生」

腰に懐かしい立体機動装置らしき物をつけ、脚にはブレードを収める鞘の代わりに小さな箱のような物が付いている。
名前はリヴァイの姿を見つけると手を振ってこっちだと合図を送る。名前の隣には背の高い男性。それは過去に団長を務めた懐かしい顔だ。

「おはようございます。来てくれたんですね」
「ああ…」
「おはようございます。名前の父のエルヴィン・スミスです。話は娘から伺っていますが、本当によろしいのですか?」
「名前さんの通う学校の教師をしております、今日はお招きありがとうございます。とりあえず、今日は見学という形で」

是非。と握手を求められるままにリヴァイは手をだして挨拶を兼ねた握手をする。握る手には豆はなく、ごく普通の成人男性の手をしている。その手は小柄なリヴァイよりも一回り以上大きく、ここでもその体型の差はあるのだとリヴァイは改めて知った。

「立体機動装置に興味おありだとか。物理の観点から?」
「あ、いや…ただ興味があって」
「そうですか。名前が興味を持っている人がいるからと言っていたので。息子に参加してくれと言っているのですが、なにぶん部活の方が楽しいようなので」
「ライナーは部活の代表なんだから。これで怪我したら可哀相だよ」
「そうだな。では先生、名前がこれから模擬演技をしますのでこちらへ。名前、始めて」
「はい。先生、それじゃあ」

訓練所と言ってもいいような敷地だ。そこには立体機動の研究の為の建物があり、その一角に名前が立体機動の模擬演技をして父親であるエルヴィンの研究に役立てるのだそうだ。
そこには町並みとまではいかないが、それに近い壁が並び、名前の身体には懐かしいベルトが巻きついている。
エルヴィンにいわれるままに案内され、少し遠いところから名前の動きを見る。マイクを使ってエルヴィンが「始めてくれ」と名前に指示を飛ばせは近くのスピーカーから名前の声で返事が返ってきた。

「名前にイヤホンマイクが装着されています。それで指示をして動いてもらいます」
「どのくらいの再現度があるんですか」
「そうですね、当時の再現はある程度。ただ当時と同じでは安全性に欠けるので改良してあります。ブレードは不要ですので削除してありますし」
「それで研究になるのか?」
「なりますよ。私は立体機動の研究をしているので。ブレードや巨人と言ったものには重点をおきません」

名前の身体が宙に浮かび、壁と壁の間を正に飛んでいる。リヴァイからは見えないが、エルヴィンがいうには安全の為に背中に命綱がついていて、立体機動のワイヤーの動きのサポートをしているらしい。むしろそんな命綱があるほうが危険だと思うが、当時と今では状況が違うのも確かだ。
マイクからエルヴィンが指示を出すと名前はその通りに動き、懐かしいような、新しい動きのような気持ちになる。それは名前と同じく過去の記憶があるからなのだろう。

「それで、この研究で何を知りたいんだ」
「これで本当に巨人とやらが倒せるのか、ですね。専門ではありませんが、巨体対人間の勝利法がこれ単一ではないのは知っていますが、これの勝率を知りたい」
「矛盾してないか?巨人にはあまり興味がないとか言っていたが…」
「あくまで巨人はオプションですよ、巨人の方は妻が専門でして。名前、スピードが落ちているから、安定させて」

はい。と歯切れのいい声を聞こえ、名前の動きに加速が加わる。
そしてそのスピードの邪魔になっているのはあの命綱だろう。過去の名前にもリヴァイにもあれはなかった。そのせいで動きを制限されているのだ、それは多分名前もわかっているはずだ。あんな物が無くても名前は飛べる。むしろ無い方がいい動きができる。出来ていたのだ。

「あれの動力は」
「当時はガスですが、今は電気です。脚についているのが充電された電池ですよ、残量も明確になっていますしガスよりパワーがある」
「別に当時の事でなくてもいいのか」
「動きは再現できていますからね。それに娘に危険な事はさせたくない。あの命綱だって名前は要らないと言いましたが、それだけは譲れません」

研究者でも、その前に親になっているのだとリヴァイは感じた。探求はするが、その代償に娘を失いたくない。ごく普通の感情だ、それがあの時ではなく現代なのだから余計に。
そう思うとあの命綱も余計な物ではく、とても必要な物に思えてくるから不思議だ。あんなもの無ければもっといい動きがでるのと思っていた。だがそれはエルヴィンが名前を守るためにとつけた。

「…わーっ!!!」
「…ハンジ、やめなさい。名前の学校の先生が居ると言っていただろう」
「知ってたけど、知ってたからこそやりたくて」
「妻のハンジです…失礼を」
「どうもどうも。名前の学校の先生が来るって聞いて。名前学校ではどうです?浮いてません?あの子私に似ちゃって」
「似てるとか嘘だろ」
「……名前、ちょっと休憩にしよう。こっちにおいで」

後ろから叫び声が聞こえて振り返ればリヴァイには懐かしい顔その弐が。相変わらずの奇行種といっても過言ではなく、フレンドリーというか図々しい。
どうやら名前から聞いたのか、リヴァイが来るという事で興味がでたらしくここまで来たらしい。この敷地内にある施設の一角でハンジは巨人の研究をしているそうだ。
ハンジはハンジで母親らしく娘の学校生活が気になるようで、「成績とか、学校生活で問題は…」と聞いてくる。一応は見学であって、家庭訪問ではないし三者面談でもないだが。というのがリヴァイの本心である。

「あれ、お母さん」
「やほー名前。今日もいい動きだったよー」
「あ、また隈ができてる。徹夜したなー」
「げ、ばれた!」
「お父さんも何が言ってよ。徹夜しないでちゃんと寝なさいって!」
「言って聞くようならいいんだがね」
「何故そこで諦めるのか」
「そのコントいい加減やめろよ…」

あははと悪びれる様子もなく笑うハンジはやはりハンジというべきか。後ろにはモブリットによく似た男がハラハラとして見守っている。その二人の関係性は今になっても相変わらずらしい。

「それにしても名前の学校の先生…えーっと」
「リヴァイだ。自己紹介が遅れたな」
「横柄だよね!」
「お前に言われたくねえよ」
「リヴァイといえば、一般的にあんまり知られてないけど巨人殺しとして有名だね」
「お母さん、それ有名なのそうじゃないの、どっちなの…」
「知る人ぞ知るって感じかな。小柄ですばしっこくて、巨人になれる男に尊敬されていたって話だよ。現代ではそのモチーフで映画とかたまーにあるよね。名前が観たいって言ってた…えーっと、あの映画」
「それ私が小さい頃の話…アニメ映画でしょ」
「…」
「申し訳ない…ハンジ、先生が呆れられているよ、いい加減に」

そういえばと思い出すリヴァイ。巨人になれるといえばエレンだろう、その伝承はあまり聞かない。過去に巨人が居たと言う事実だけは誰しもが知っているが、それはもうファンタジーの世界だろう。居た記録はあっても証拠がないのだ、証明できるのは実際見た名前とリヴァイ以外はいない。見たといっても現代では鼻で笑われておしまいだ。

「なんていうかさー、私凄い懐かしい気分なんだよね」
「睡魔が襲ってきて?」
「名前ってば意地悪だな。違うよ、なんていうか、不思議と横柄な態度でも腹が立たないっていうか」
「ハンジ」
「エルヴィンだってそうなんじゃない?私の時と一緒でさー」
「お母さん。こんな所で思い出話はやめてよ。私だけならまだしも、先生と後ろにモブリットさんがいるでしょ」
「母さんだって先生とお話したいー」
「駄目だ、睡魔で饒舌になってきた…これは危ない、危ないぞ…モブリットさん!」

はい!と敬礼してきたモブリットはガシっとハンジの腕を掴み、どこかへ強制連行していく。当のハンジといえば、抵抗することなく黙って連れて行かれている。どうやら名前の言うとおり睡魔が襲っていたらしい。眠くてあのテンションだったなら、普段はどうなのかとリヴァイは恐怖で戦慄した。

「妻が失礼を…どうお詫びしたらいいか」
「いや、気にしないでくれ」
「ところで先生、立体機動装置どうでした?」
「ああ、そうだった。興味がおありなら是非とも。ベルト等の装着は名前が出来ますので一度体験していただけたらと思います」
「先生なら私以上に上手いから、私以上の研究ができるよお父さん」
「そんな簡単にできたら私が代わりにやっているよ」

誰も出来ない中、名前だけができたんだから。とエルヴィンの一言にリヴァイは反応した。

「どういう意味だ?」
「私以外にバランスが取れなくて。ライナーもお父さんも、叔父さんも駄目で」
「名前だけでは研究に限度がありまして、興味を持っているなら協力して欲しいと…」
「それは俺が出来ないと思って言っているのか?」
「…え?」
「まさか、先生が出来ないなんて思っていません。わかっています」

それじゃあお父さん、先生案内してくるね。と名前はリヴァイの前を歩く。
巨人殺しと言われているのは少し気に入らないリヴァイだが、そんな事をしなくていいのなら、名前同様に空を飛ぶのも悪くないのかもしれない。
研究とやらには興味は正直ないが、それは黙っておく。

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