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進撃 (7/8)
かわりの涙

マルコとジャンは仲がいい。マルコは面倒見がいいから私にも声をかけてくれる。それでなんとなく一緒にいるようになったら、マルコとジャンと私は一緒に行動するようになっていた。

「名前、何書いているの?」
「手紙」
「なんだよ、また家族にか?よく書くよな」
「調査兵団にいるんだから、安否確認の為にね」
「便りがないのが元気な証拠だろ」
「それだけじゃないよジャン。名前はその家族に元気だよって知らせているんだし」
「そういうこと。それにそう易々と死んじゃう人じゃないからね。あと私の勉強も兼ねているってわけ」

私は文字の読み書きが正直なところ苦手だ。訓練兵団に入って一番の苦労は座学。何度マルコに助けてもらっただろう。何気なくジャンも手伝ってくれるが、何かと一言多いのでお礼をいうタイミングを逃しているが、ちょっとだけ悪いなと思っている。

「反対されない?」
「え、なにが?」
「調査兵団に入るって」
「んなこと反対してたら、名前の家族自身が反対の対象じゃねえか。自分の兵団に名前は駄目だって」
「そういうこと。まあ最初は反対されたけどね、わざわざ寿命減らすなって」

なんてことはない。あの人なりに私を心配していってくれた言葉だ。私は頭が良いわけでも、要領がいいわけでも、身体能力が高いわけでもない。だからと言って努力しているというわけでもなく、無理しないで可能な限りで訓練兵団にいるだけだ。勿論成績がよければ憲兵団なんて、と思わなくもないが。私の頭では到底無理だ。

「それなら駐屯兵団にしたら?」
「ダメダメ、約束してるから。調査兵団に入って一緒に仕事するまで死んだら駄目だからね!!って言ってある」
「その前にお前が死にそうだけどな」
「悪運だけはいいから、私。ここにいるだけでも十分悪運でしょ」
「幸運って言った方がいい気がするけど…」
「二人は憲兵団志望でしょ?憲兵団に入って、私が調査兵団に入ったらさ、ご飯おごってよ、ご飯」

ふざけんなよ、なんでお前なんかに飯奢らなけりゃいけねえんだよ!!とジャンが怒ってテーブルを叩いて。マルコが宥めて「じゃあ、壁外調査が終わった御褒美にね」なんていってふざけて遊んでいた。


「ねえ、ジャン…」
「…名前」
「マルコ、死んじゃった」

地獄のような、いや、まさに地獄だった。壁が壊されて、巨人が入ってきて。そしてたくさんの犠牲があって、今その処理に追われている。
マルコの死体を発見したのはジャンだと聞いた。その後私は積み重なった死体の中で、顔が半分ないマルコを見つけた。穏やかとはお世辞にも言えない表情だったと思う、多分。あの世界の中で穏やかに死ねるなんて、思ってもいないけど、目の当たりにするのと想像では大きな差がありすぎた。これから私はその世界に行くのに、あの人はいるのに。

「私、まだご飯奢ってもらってないのに…」
「…まだ、そんな事言ってんのかよ」
「まだ、私…マルコに色んなお礼、言ってないのに。勉強教えてくれたのに…訓練、助けてくれたのに…まだ、マルコと一緒に色んな事、したかったのに…」
「………」
「ねえ、ジャン。私、薄情なのかな…悲しいのに、涙、出ないよ。マルコ、死んじゃったのに…友達、たくさん死んじゃったのに…」

おかしいよね。とジャンに言えば、ジャンはビックリして、でも悲しい顔をして私を見ている。私よりも、ずっとずっと悲しそうで、涙の後が見える。マルコはジャンにとって一番の友達だからだろうなと思う。私はそこのオマケみたいなものだけど。

「家族がね、ずっと前に死んじゃった時は、死体がなくて、私が小さくて、よくわからなくて、でも悲しくて泣いたんだ」
「……」
「でも、私もう、大人だし…マルコの、死体見たのに…どうして?どうして私泣かないの?私、マルコの事、嫌いだった、のかな…」

手を、爪を立てて握っているから痛くて。気がつけばそこから血が出ている。
それを見たジャンが強引に手を引っ張って、その傷口に持っていた布切れを押し当てる。
ジャンなりに私の心配をしてくれたんだろう。この無力感の中で、誰も他人なんて気にしていられないのに。

「馬鹿、自分でなにしてんだよ」
「…なに、してんだろうね。わかんない」
「泣きそうな顔してるくせに。誰よりも泣きそうな顔してるくせに。強がんなよ」
「涙、でないんだよ…ジャン」
「泣けよ、泣いちまえよ…!」
「泣きたいよ…ジャン。泣きたい、泣きたいよ…」

私が泣きたいと言っている前でジャンがぼろぼろと泣いている。私の分まで泣くように。でも私の傷口に押し当てる布の力は弱くらなず、むしろ強くなる一方で。正直痛い。でも、そんな事言うよりも、私は泣きたくて泣きたくて。でも泣けない、涙が出てくれない。
悲しいのに、泣きたいのに。今だけは凄くジャンが羨ましい。

「お前が…名前が、泣かないから。代わりに、泣いてんだからな…」
「う、ん……うん、ありがとう、ありがとう」
「涙流さないで、血流して…お前が可哀相だからじゃ、ない…だから、な」
「…うん。ありがとう」
「代わりに、泣いて、やるから……泣けるように、なった…ら、代わり、に…泣け、よ」
「うん。泣くよ、ジャンが泣いてくれた分まで、泣くよ…泣くよ」

周りが憔悴しきった顔をして、誰もが泣いて、誰もが落ち込んでいる。
女の私を前にして泣くジャンは、周りから見たらさぞかし滑稽な姿に写るんだろう。普段ならば。いつも私を小馬鹿にして、私が怒って、それをマルコが宥める。いつものパターンだ。それこそサシャとコニーが教官に怒られる風景と同じ位の日常なのに。今はジャンが私を前にして泣いている。

「…ジャンは、憲兵団だから、死なないね」
「……」
「私は調査兵団に行くから、私が死んだら泣いてね。私が泣けなかった分も、泣いてくれると嬉しいな」
「馬鹿野郎…なに、言ってんだよ……まるで、死にに行くみたいじゃねえか…」
「私、役に立ちたかった。だから、調査兵団…行くんだ。死に行くんじゃないよ。ご飯、奢ってね、マルコとジャンとの約束だったけど、ジャンだけになっちゃったけど」
「…馬鹿野郎…ばか、やろ…」
「ジャン、泣いてくれてありがとう。今まで、ずっと、ありがとう。色んな事、助けてくれて、ありがとう。マルコにも、言いたかったよ…ありがとうって」

押さえつけていたジャンの手をそっと外して、鼻水までたらして泣いているジャンの頭を撫でてみる。泣いてくれているジャンは私とはそんなに年がかわらなくて、私よりも背が高いのに凄く年下に見える。
マルコがみたら、きっと戸惑ったように笑うに違いない。よく私とジャンに「仲がいいね」と言って、私達は「どこが!?」と声をそろえて反論していた。そして人のいい笑顔で、やっぱりねと笑っていた。

「マルコにさようなら、言いたかった」

私がそういうと、余計にジャンが泣き始めてしまった。
ごめんね、ジャン。ジャンも色々我慢しているのに、私が余計な事いうから止まらなくて。

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