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(2/3)
飛沫の竜

「良い所に戻られました名前様」
「ユキムラ…どうしたの、貴方らしくもない」

白夜王国軍師のユキムラがらしくもなく息を切らせてちょうどシラサギ城に戻った名前に駆け寄った。
名前に「様」と付けているが本来の身分は高いわけではなく、現女王のミコトが後妻として城に入った際に従者の子であった名前を養子として迎えたのだ。なので王族ではない、言えばミコトによってその地位をあたえられただけの子である。しかしながらそれでもその与えられた地位に見合うだけの働きや努力は惜しんでおらず、信頼はうすくはない。

「カムイ様が」
「…その名前を聞くのも久しぶりだけど、どうしたの?」
「戻られたのです。今ミコト様が広場へ」
「………、それ、本当、なの?」
「ええ、本当ですとも。数日前に戻られまして、すぐにでもご連絡を差し上げたかったのですが城内がその余裕がなく」
「ユ、ユキムラ!こ、これお願いします!!」

名前は持っていた荷物、主に報告や軍議に使う書類をユキムラに押し付ける。
多少驚いた様子だったユキムラだが、こればかりは仕方がないとそれを受け取り「転ばぬようにお気を付けください名前様」と名前に言葉を送る。
白夜王国の王子と王女は二人ずつ。名前は養子として迎えられたが王位継承権はなく、他の王族と違って直属の臣下も持っていない。そもそも持てる身分ではない、と言ってしまえばそれまでではあるが、臣下の誰かが名前を主にと求めればそれが通常であれば認められる。しかしそれは名前は良しとせずに申込みがあっても己は王族ではないのだから不要だとミコトを通してすべて断っていた。
もし直属の家臣がいたならば情報も早く名前の所まできたかもしれないが、今となってはどうでもいい話だ。
今の名前にとって一番大事なのはカムイが白夜に戻ってきた。それだけなのだから。
走って城内を抜けていると「名前様、そんなに走られてはお体に障ります」やら「またお怪我をなさっては大変です」と言われたが、まるで関係がないと言わんばかりにその言葉を無視して走った。
ただ、名前は待っていた。カムイを。
やっと城内を抜ける、というところで名前は異様な気配、いや雰囲気を感じ取りその足をとめた。
何かの気配がする。何の気配かは知っているはずだが、どうにも何かが引っかかり思い出せない。しかしそれはあまり良いものではないのは確かだ。ここは大きな結界を張っていたのだから害するものは入ってこれないというのが前提だった。

「名前様、まだこんなところにいらしたのですか?」
「ユキムラ…何か、嫌なものが」
「嫌な物?占いか何かですか?それより…」

大きな爆発だ。その方角は広場の方角、あそこには女王と王子王女、そしてカムイがいる。

「な…名前様、危険ですので城内へ退避を!」
「ユキムラ指揮をとって兵を広場へ!私は先に広場へ行く!!」
「名前様!」

ユキムラが制止するよう求めるのを無視して名前は走った。
そして名前は思い出した。アレは生きたモノではない気配。ここ白夜で感じた事のないそれは、故郷で幾度となく遭遇してなんど薙ぎ払っただろうか。
もう何年も前の話で、もしかしらたら忘れかけていたその気配にすぐ気付くことが出来なかった。
息を切らし、人間の身体では思う様に前に進まないいらだちを押さえながら人が混乱し逃げ惑う城下を走る。誰も名前だとは気付く余裕もなく、我先にと避難するのをかき分けて名前はただただ人間の身体で走った。

「あ、名前姉様!だめです、こっちにきたら!!」
「名前姉さん逃げて!!」

その広場にあったのは瓦礫となった爆発の残骸、そして一体の竜が錯乱している。

「名前だめよ、逃げて!貴女でも無事ではすまないわ!」
「危険だ、城内に戻れ名前!!」
「カムイ!!……っ、私がカムイを抑える!!」
「名前姉様…どうしてあの竜の正体を…?」

名前が地を蹴る。そして名前の姿が歪み、そして錯乱する竜よりも幾周りか大きな竜へと姿を変えていた。その名前が姿を変えた竜は錯乱する竜を抑え付け、嘶く。
誰もが呆気にとられた。竜が二体。一方はカムイ、そしてもう一方は名前。
名前は自分の意思で竜になり、錯乱するカムイを抑えつけている。
王族は神祖竜の血を引いている。では名前も王族なのか、という疑問は残るが今はそれよりも抑え付けられたカムイだ。その暴走を止めないと被害を大きくなるばかりだ。



「どういう事だ名前。どうしてお前が竜に…」
「…ミコトが死んだ」
「名前…?母上に向かって呼び捨てとは…気が触れたか」
「ミコトが死んだのならもう人のフリをする必要はないと判断した。私は人じゃない」

カムイが人の姿に戻り、そして名前も同じように竜から人の姿に戻る。
誰もが判断できずにいた。竜になったカムイと竜だった名前。
同じようで違う二人をどうすべきなのか。そしてどうしたらいいのか。

「…名前」
「アクア、よかった…怪我は」
「大丈夫。カムイに竜石を渡したからカムイも大丈夫よ」
「あの…」
「カムイ、またここに戻ってきてくれて嬉しく思う。さっきは手ひどい事をして悪かった。アクアとカムイ、どちらも助けるにはアレが一番だった」
「いえ…」
「そんなことより名前姉さん!名前姉さんが居れば今来てる暗夜軍を一掃できるじゃないか!どうして今まで言わなかったんだよ!」
「タクミ…」
「名前、この件に関しては暗夜をどうにかしてから詳しく聞かせてもらうぞ。名前はそのまま城に帰るんだ。他の者は一緒に進軍するぞ」
「待ってよリョウマ兄さん、名前姉さんが居れば…」
「駄目だ。名前の体質を知っているだろう、名前が白夜へ来たばかりの怪我が数年前にやっと治ったのを忘れたのか」
「………っ」
「名前姉様、お怪我がないか戻ったらみますから、ちゃんとお城で待っていてくださいね」

名前は何か物言いたげにしたが、今はただ「ああ」と小さく頷き、出陣する一行を見送った。

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