祓魔師 (4/5)
目隠し4
「名前様」
「蝮やね。今日から現場復帰やて柔兄と金造から聞いとるよ、おめでとう」
「…有り難うございます」
「一人え?錦と青はまだ養生中?」
「二人とも復帰しとります」
そう、良かったわ。
包帯越しからも柔らかく笑う名前に蝮は目を伏せた。
幼い頃より幼なじみで姉妹の様に育った名前と蝮。
蝮は勿論名前が祓魔師になるものと信じていた。しかし名前は祓魔師にならずに虎屋の女将を継ぐと言った。
座主血統の血筋でありながら祓魔師にならないという名前を理解する事が出来なかった。何よりも名前を祓魔師にさせなかった父にも理解出来るはずがなかった。
「お体の御加減いかかでっしゃろ」
「目以外は大丈夫よ、早よう皆の顔見たいわぁ。お腹も一人前に鳴くしな」
「左様で」
「バチが当たったんやろか」
「…バチ?」
「私が祓魔師ならんかったバチよ。したら私も、皆魔障ならんかったかも知れへんし」
「そんな事考える暇あるなら早ようお体治されまし」
「せやなぁ。蝮にはいつも叱られてばかりや」
名前が高校をどうするか悩んでいる時だった。
蝮は名前に進路について悩み事を相談したことがあった。
祓魔師を目指そうか、このまま普通の人間として寺の皆を助けるか。
名前は青い夜以前に産まれながらも魔障には掛からずに今まで生活してきた。
ついでに言えば魔障にかかる可能性がありながらも普通の人間であり、そして祓魔師という存在に近かった。
『私に相談ですか?』
『あ、あのね蝮』
『相談なら志摩がよろしいんでは?あの申なら喜んで話聞いてくれますえ?』
『柔造とか金造じゃ…駄目やの、蝮が…ええの。駄目?』
『…私で名前様のお力になれんやら、喜んで』
私祓魔師にはなりたくない。
その言葉が出るまでは自分が志摩よりも頼られたという誇りがあった。
それから名前が蝮に「私は違う形で皆を支えたい、守りたいんや。虎屋かて皆の力なるやろ?」という言葉が耳に入ったかと思うが心に留まってはくれなかった。
「…座主血統やから祓魔師になった方がええのかも知れませんな」
「…っ」
「でも名前さまは選ばったんや、祓魔師ならんと。ならそれを、その意志を通さりなさいまし」
「…せや、ね。うん、やっぱり蝮は姉さんや。柔兄は優しいけど甘いし、金造も優しいばかりや。蝮だけが叱うてくれるわ」
蝮に尻叩かれてしもたわ。
そう明るく笑う名前に蝮は余計に名前を見ることが出来ない。
これから蝮がやろうとしていること。
それはこの寺に関わる者を守り、名前を守る事になるばす。
あの達磨が守らなかった名前を守るんや。そう蝮は思ってさえいる。
名前は父親の達磨に比べて座主に向いているのではないかと思うことがある。
厳しさはないが、優しさはあり、魔を滅する力はないが、慈愛の力がある。
それは弟竜士には適わないが、慕われているのは確かである。
名前が性別が男で祓魔師であったなら。そう蝮は思った事もあった。
「蝮、何か悩んどるの?」
「…なぜその様な事」
「見えなくても観えるんよ」
「……」
「ねえ蝮。遠く行くん?」
「……」
「早よう帰って来てや。あと怪我と病気しんでや」
「…っ」
「私、蝮と錦と青と一緒にご飯食べたいんよ。あと温泉も入ろな」
だから早よう帰って来てな。
その明るい声が蝮に深く刺さった。
それに答える事が出来ない自分に。
「ちょっと…帰るのは遅くなりそうや…せやから名前様は私が帰るまでに目を治しなされ。話はその後やね」
「それ言われたら痛いわぁ……蝮、気ぃ付け。私待っとるよ」
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