夏目友人帳 (1/6)
会いに来た、友よ。
「レイコ」
その日は珍しく静かな日だった。
静かというのは一般的な話で、天気の事だ。
空は気持ちの良いほど晴れ渡り、風は緩やかに頬を撫でる程度。
そんなある日に、風がぴゅうと吹き、少年は声をかけられた。
勿論「レイコ」が彼の名前ではない。
「レイコ」は彼の祖母の名だ。
彼を祖母の名で呼ぶのは人では、けっしてないのだ。
彼が振り向けば、恐ろしい容姿のアヤカシモノでなく、馬に似た生き物。
馬というには小柄で、額に角が見える。
「レイコ」
「………レイコは俺の祖母の名前だ。名前を返して欲しいのか?」
「なんだ、レイコではないのか。レイコが戻ってきたと風の噂で聞いたから来たが、ハズレか」
それは残念だ。と馬は酷く落胆した様子で頭を垂れた。
彼がもう一度「名前を返して欲しいのか?」と問えば馬は頭を振って否定した。
「私はそこらの奴とは格が違う。人間などに名を奪われたりしない。レイコとは人の言葉で言うなれば友達、悪友だ」
「お、麒麟じゃないか」
「斑か、久しいな。なんだ、その格好は」
招き猫の様な猫がどこからともなくやってると、猫は馬に親しげに声をかけた。
馬が猫の姿を見て笑うと猫は毛を逆立てて怒ったが、馬はふん。と軽くあしらった。
「レイコでなければそうそうに戻るところだが斑が居るならば話は別だ」
「先生、この、キリンってのは?」
「ああ、レイコが唯一勝てなかった妖さ」
先生と呼ばれた猫は少年に向かって意味ありげにニヤリと笑った。
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