祓魔師 (1/5)
目隠し1
「お姉!」
「この声は竜士やね、廊下走ったらダメや何回言うたらわかるの。高校生やろ」
「お嬢、具合大丈夫ですか?」
「只今戻りました」
「今度は廉造に子猫やね、元気やった?」
目を覆うように包帯が巻かれ、座敷に敷かれた布団から体を起こして声がしたほうを見やる黒い髪の女性が一人。
勝呂家長子名前。
「そんな悠長な事言ってる場合か!お姉、目…」
「何言うとるの、挨拶は大切え?ちゃんとせな」
「お嬢は肝が座っとるなあ」
「志摩さん…」
「三人は変わっとらんなぁ。高校生なっても」
クスクスと笑う姿は三人が京都を出る時に見送ってくれた姿と寸分違わない。
あの日も風邪を引かないように、ちゃんとご飯食べなさい、無理はしないように。
ちょっと羽目外して遊びなさい。と笑った姿と同じ。
ただ違うのは目だ。
綺麗な漆黒の目と髪をしていた、その女性の、美しかった瞳が見ることができない。
「目…酷いんですか?」
「ああ、これ?さあ、どないなっとんのかね」
「わからんのですか?」
「へえ、これは運や言われてな」
名前は勝呂家長子でありながら祓魔師の道には進んではいない。
祓魔師の才能がないとは言わないが、名前自身で自分はその才能はないと言い切った。
父の達磨も名前がなりたないならならんでええ。と、むしろ選ばなかった事を安心した様子もあった。
祓魔師の道を選ばなかった事は幾つか理由がある。
まず一つ、名前は魔障を受けていない。
そして次に見えない故に周りが恐ろしい。それに関して言えば見えないからこそ周りの人間が恐ろしい。
自分の見えない何かと闘い、傷つき、命を落とす。
見えない故の恐怖といえよう。
他にもあるが、名前はその道にはいきたくなかった。
「こうなったのは私自身の不注意やし、こうなる運命やったんね」
「お姉…!」
「竜士なに泣きそうな声だしとるの。男の子が泣くな」
「泣いとらんわ!」
「…この目な、視力が戻ったら三人と同じ世界が見えるんよ」
「お嬢…」
「怖いなぁ。目が見えんでも見えても世界は恐怖や」
父に食事を持って行っただけだ。
別段変なことはない。
いつもの様に父に食事を運んで、たわいない話をして食事を下げる。
いつもの仕事のはずだった。
今日のご飯はいい魚が入った、このおひたしは今年一の出来だ。そんな事ひ話して終わるはずだった。
しかしそれは一変して名前は磨障に呑まれた。
名前の知らない存在の「不浄の目」とやらの災いがかかった。
それは名前だけではなく、近くに居た複数人にまで及んだ。
「まあ、私が祓魔師になっとったら、例の目について知識があったらこうならんかったかもな」
「お姉は悪ない。悪いのはおとんや」
「過ぎたこと言っても仕方ないから、今度はどうするかやね」
「…どうする?」
「せや。いつまでもこうしとられへん。目が見えないなら見えんなりに生活変わるやろ?見えたら私も祓魔師なろうかな」
病床ながらも前向きな答えに言葉を失うが、名前は前からそうだった。
結果は変えられない、ならこれからどうするか。
名前は常に三人に言っていた。
「でも若い子に混じるんは、恥ずかしいな」
まるで本気で悩む様な仕草の名前に三人は力が抜けた。
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