鶺鴒 (16/21)
その不完全さゆえにきみが愛おしい/陸奥
女葦牙
ああ、名前がヘコんでいる。
陸奥は目の前で行われている行為にただそう思った。
そうでなければ、あり得ないといってもいいだろう。
こうも必死に名前が自分からこんなことはしない。
「ん…あ」
「…気が済んだか?」
「………」
リップ音の後。
慣れない名前の粘膜接触はたどたどしい。
こういった行為をしたことがないと言っていたから、それに関して何か言う気もない。
「…ねえ、陸奥」
「なんだ」
「キスって、気持ちいいの?」
「…今までさんざんしておいて聞くか?」
「だって、よく…わかない」
これはまた友達とやらに何か吹き込まれたな。
そうでなければ名前は積極的に俺に触ろうとはしない。
それは俺にしてみたら、少し寂しい気もするが、名前はそれを望まない。
名前は男が苦手なのは知っている。
「友達が…ね、名前さんは素敵な…彼、氏が、いるんだからって…」
「それと粘膜接触となんの関係がある」
小さく「うっ」と声を出すと、それから黙り込んだ。
自分でいうのもなんだが、葦牙の名前とセキレイの俺は少々似ている。
こういう口べたなところとか。
だんまりを決め込むと、本当にどちらかが口を割らない限り沈黙が続く。
こんな時はNo.06の様に上手いこと言って名前を励ますなり、助言を与えてやれたらいいが、何分しゃべりは上手くない。
俯いたまま沈黙する名前の額に、ささやかながらに唇を落としてみた。
確かNo.06がこんな事をしていたのを見たことがあったから。
「陸奥が、ね。キス、上手いの?って…聞かれたの」
「粘膜接触に上手いも下手もあるのか?」
「友達の…き、すの話はね、セキレイの接触じゃなくて……こ、恋人、の」
「……舌とか使う、あれか?」
「だ、だと、思う…」
ああ、そうか。
ひどくその不完全さゆえにきみが愛おしい
そう思う。
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