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鶺鴒 (14/21)
それでは誘惑の準備を/鴉羽

連主





「また忍び込んだな鴉羽」

「気にしない気にしない」

「………」


ひとつ深い溜め息をついた名前。
こんなやり取りも数回もすれば、慣れるというものだ。
ムスッと鴉羽を睨むも、それが通用しないことも解りきっている。
そんな無駄なことをするのも時間の無駄と自分の精神衛生によくないとも学習したので名前は早々にベッドから下りる。

鴉羽の目の前での着替えにも慣れてしまった。
それもどうかと思い、最初こそ部屋から出ろと怒ったがそれも無駄だった。
鴉羽にそんな人間の普通や常識は通じないのだ。


「…名前、それ」

「あ?なに?寝癖ついてる?」

「違う、その首…鶺鴒紋?」

「鶺鴒紋…?」


振り返る名前だが、それで見えるはずがない。
それは己の首筋に近い背中にあるのだ、振り返って見えるはずもなく名前はただ鴉羽にあったその位置に手でパタパタと触れてみる。
触った感覚では普段とかわらない肌の感触。
合わせ鏡にして見ればいいのだが、生憎そんな手鏡のような小さい鏡を持ち合わせていない。
鏡はすべて備え付けで用足りている。


「名前は…セキレイだったっけ?」

「人間のつもりでここまでやってきた」

「そうだよねえ…」

「そもそも本当にあるのか?鶺鴒紋。また鴉羽がイタズラで言ってるんだろ」

「いや、あるよ」


自分と同じ位置に。と言う鴉羽は名前に背を向け、己の鶺鴒紋を見せるがその姿に名前は絶句した。
在るはずの鶺鴒紋が鴉羽には無かったからだ。
鶺鴒紋消失となれば、イコール機能停止ということ。
しかし鴉羽は機能停止していない、活動している。


「…ない」

「ん?」

「鴉羽の、鶺鴒紋…ない」

「………」

「………」

「名前には、あるよ鶺鴒紋」

「……どういう、事だ?」

「単純に考えると、名前がセキレイで自分が葦牙。とか?」

「セキレイと葦牙は入れ替わったりするのか?」

「さあ、聞いたことないから」


困惑する名前とは対照的にのんびりとする鴉羽。
むしろこの状況を楽しんでいるのはないかとも思える。
内心「名前が焦ってる。可愛いね」とか思っているのかもしれない。
それとは裏腹に名前は名前で「鴉羽の鶺鴒紋がないのに鴉羽は活動してる…?おかしい、おかしすぎる」とやはり困惑している。


「名前がセキレイなら、自分の遺伝子に反応するのかな」

「は?今はそれどころじゃ…」

「名前、粘膜接触しようか」


それでは誘惑の準備を
御題提供:確かに恋だった

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