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鶺鴒 (12/21)
彼と彼女が特別になるまで3


「なんか…すみません」

「ん?」

「篝さん、今日お休みなのに…。私みたいなのに付き合ってもらって」

「いいよ、僕から申し出たんだし」


せっかく来たんだから帝都見物をしたい。
そう思うのは道理だろうと思う。

それでは名前に帝都を案内しよう。と話を持ちかけたのは名前の兄の皆人。
しかしながら彼には名前の滞在期間にはキレイにバイトが入っていたのだ。
では結が。と手を挙げたのはいいが、彼女もまた帝都に馴染んでいない。
そんなやり取りを見ていた篝が「それなら僕が案内するよ」と自然に申し出た。
ただ、その申し出は篝にとって自然ではなく必然。
名前と二人きり。
もしかしたら彼女が自分の葦牙かもしれない。
そのタイミングがこの時間にあるかもしれない。
そんな期待があった。


「どう?帝都は」

「はい、いろんな物がありすぎて目が回りそうです」

「そう?こういう所って若い子が憧れるんじゃないの?」

「若い子って…篝さんだってお若いじゃないですか」

「名前ちゃんよりも少し年上だけどね。もう少し砕けた話し方にしない?そっちの方が僕嬉しいんだけど」


そう言うとキョトンとする名前。
名前にしてみたら年上で、しかもあまりよく知らない相手に対して当然する反応だ。
昨日あったばかりの篝。自分の葦牙かもしれないという期待と不安で名前を時間の許す限り見ていて分かったことは名前はいわゆる大人しい子、人見知りがある、引っ込み思案。
そんな子がただ兄と下宿を同じとする男性に連れられているのだ。
急に普段と同じにしろなんて言われても困るのは当然だ。


「えっと…」

「ああ、ごめんね。そんな顔するとは思わなくて…。僕ホストしてるから女の子がそういうの慣れないから…ね」

「ホストさん…なんですか」


あ、これはヤバい。

なんとなく感じ取った名前の心の動き。
多分名前にとってホストはあまり良いイメージがないようで一歩下がった気がした。
それについて弁解をしようとすると鳴る篝の携帯。


「あ、ちょっとゴメンね」


ディスプレイには良く知る人物の名前。
こんな時に電話しないでくれよ。と心で悪態をつきながらも電話にでるとガーディアンの仕事。
しかもここから近い付近。


「ごめん、ちょっと急用できちゃった。すぐ戻るからここで待ってて。いい?約束。勝手に帰らないこと」

「え、あの…」

「すぐ戻るから!!」


行っちゃった…。
こういうとき携帯があると便利なのに。

名前は篝の小さくなる背中を見つめながら思った。






「どうしようかな…」


高校の入学祝いにと貰った腕時計を見ながら名前はつぶやいた。
あれから数十分。
ここで待てと言われたからからには勝手に動くわけにもいかず、そこで名前は一人で待っている。
ただ立っているのは疲れるので壁に寄りかかったり、近くのお店を外から眺めたり。
喫茶店に入って休みたい気持ちもあるが、そのせいで姿が確認出来ずに篝に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そんな心配をして名前はその場から動けずにいた。






これは不味いぞ。

篝は急いで着替えて名前と分かれた場所を目指して走った。
ガーディアン業が思いの外手間取り、時間を押してしまった。
女性に待たされることは慣れているが、待たせるなんてことはしたことがないし、するつもりなんてなかった。
きっと初めての場所で心細いだろう。
あまりの人の多さに圧倒されていないだろうか。
人に酔って具合を悪くしていないだろうか。


「あ…」


名前ちゃん、ごめんね。と声をかけようとした篝はそれを躊躇い、やめた。
やめたというよりも、声が出なかったに近い。
それは名前が絡まれていたからだ。
本来ならそこを助けなければいけない。
頭ではわかっている。
でも身体が動かなかった。
恐怖ではない。
もしかしたら自分の名前を呼んで、助けを求めてくれるかもしれないという下心が働いたからかもしれない。


「ねー、彼氏にすっぽかされたんだって」

「……そんな人じゃ…それに、彼氏とかじゃ…」

「携帯でメールしたらいいじゃん」

「アドレス…知らないので」

「えー、知らないの?」

「あの、用がないなら、もう…」

「用あるよ、一緒に遊ぼうよ」

「あ…篝、さん」


ちょうど目に入ったのだろう。
篝が名前の声に反応して、いつもの様に笑えているか少し不安なりながらも声をかけた。


「ごめんね名前ちゃん。もう用事終わったから、行こうか」

「あ、は、はい」


篝が現れたことによって安心した様子の名前。
行こう。と声をかけた篝の後ろについて行こうとする名前の手を篝は素早く握ると絡んでいた男達に見せつけるかのようにしてその場を後にした。

そのまま無言のまま歩く篝。その後ろをついていく名前。
名前としては繋がれた手が気になるが、それについて聞いてもいいのか分からない。
はたから見たら彼氏の方が少しイラついているカップルにみえるかもしれない。


「か、篝さん」

「…なに」

「あの、あ、ありがとうございました」

「……お礼なんて、言われることしてないよ。むしろ、謝らなきゃ」

「そんな、私が観光したいななんて言わなかったら、篝さんに迷惑かけることも、絡まれちゃうことも、なかったわけです、し」


小さくなる名前の声と言葉。
それに反して名前を握る手が強まる篝。
篝は名前に「少し走るよ」と名前の手を握ったまま走り出した。





どれくらい走っただろうか。
セキレイである篝にはキツくなくても、普通の人間である名前には負担も大きい。
一応ホストでもある篝は勿論その事も頭の隅においてはいたが、気付いたら篝は篝のペースで足を動かしていた。
それに気付いたのは篝が目的としていた場所。
息の荒い名前に足を早めた事を謝ると、名前は名前で「運動不足なので、このくらいはたまに動かないとですね」と名前なりに気を使ったようだった。それはなにもフォローになってないのたが、篝はそれに対して何も言わずに名前と向き合った。


「ねえ、名前ちゃん」

「はい、なんですか。すみません、まだ、息…上がっちゃって」

「…ごめんね」

「…なにが、ですか?」

「僕ね、名前ちゃんが…好きなんだ」

「……へ?あ、ああ、さすがホストさんですね」


ぽん。と手を合わせる名前。
どうやら彼女は篝の今の言葉をリップサービスと思ったらしく、少し照れたように笑った。
顔の赤みは照れなのか先程のせいなのか判別はできないが、篝を欲情させるには十分過ぎた。


「たぶん、君、なんだ。いや、君なんだよ名前」

「……あ、あの、私、お客さんじゃないです、よ?」

「こんな事、名前以外に頼めないんだ…僕の、葦牙に」

「…篝、さん?」

「………キス、させて」


え?
その声は声にならずに二人の間でリップ音に消えた。

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