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鶺鴒 (10/21)
彼と彼女が特別になるまで/篝(焔)

皆人妹/高校生





「おにーちゃん」

「え!?な、なんで名前が!!」


先日突然やって来たユカリに引き続き、ユカリのひとつ下の妹が現れた。
その事に驚きを隠せない兄の皆人。
ただ驚いて、どうしていいかわからない。
そんな様子を見ていた娘は「上がっていただいてはどうですか?」とごく当たり前の助言をすると、そうだった!と名前を客間へと通した。


「名前さんも皆人さんの妹さんなんですか?」

「はい、妹です。お姉ちゃんから聞いてたけど、すごい胸…。やるね、お兄ちゃん!!」

「名前!…急にどうしたんだよ、びっくりした。くる前には連絡入れること!」

「はーい。あ、そうだ自己紹介がまだでしたね。私佐橋名前。そこのお兄ちゃんの下の妹です」


少し皆人には気になる表現があったが、ここで細かく言うのも面倒なので黙っておくことにした。
そんな事を知ってか知らずか。
結と名前はなぜか意気投合して楽しそうに話だした。
シスコンではないが、妹は可愛い。
ユカリは昔から活発だったが、名前は比較的温和しくて人見知りもあってよく後ろに付いてくる子だった。
それに頭も良く、地元でも進学校のトップクラス。
自分と違って本番に強くて自慢の妹。

そんな事をボンヤリと思っていると、お昼寝をしていた草野がひょこっと顔をのぞかせた。


「…だあれ?」

「はじめまして、佐橋名前です」

「くーはね、くーだよ」

「名前、草野ちゃん。くーちゃんってみんなから呼ばれてるよ。くーちゃん、名前は俺の妹。ほら、この前来てた妹のユカリの下」

「いもうと…?」


“妹”というキーワードに少し皆人はしまった。と思ったが、そんな心配は杞憂に終わった。
「おにいちゃんの、いもうと!くーのおねえちゃん!!名前お姉ちゃん」と上機嫌になり、名前の隣にぺたんと座ってニコニコしている。


「そういえば名前はどうして帝都に?」

「うん?あのね、お姉ちゃんもお兄ちゃんも帝都でしょ。そんで今春休みだし。遊びにきたの」

「そんな急に…」

「急じゃないよ。お姉ちゃんトコに泊めてもらう約束だっから!…でも」

「でも?」

「急にね、お姉ちゃんが私泊められないって。それでね、お姉ちゃんがお兄ちゃんが引っ越したからそっちに泊めてもらえって」

「お姉ちゃんお泊まりするの?」

「くーちゃん、まだ決まってないからね。大家さんに…」


聞かないと。と続ける皆人。
こういう駄目押しをするのはユカリらしい。
名前はといえば、そういう駄目押しに弱く、ユカリの言うことあっさりと行動に移してしまうのが名前らしいといえば名前らしい。

押しに弱い名前、このあたりは自分と似てるんだよな…。

嬉しくない事が似ている妹を不憫に思いながらどう大家さんに頼もうかと悩む皆人。
大家さんにはかなり無理なお願いを聞いてもらっている。
結や草野の事だ。
結は最初からいたから何とか誤魔化しが効いているが、草野にいたっては少々キツかった。
そんな無理をきいてもらっている身の皆人としては、妹を泊めて欲しいと願い出るのは気が引けてならない。


「あら、お客様?」

「あ、大家さん。すみません、妹が来たもので勝手にあげてしまって」

「はじめまして佐橋名前です。兄がいつもお世話になってます。これ、つまらないものですが、よろしかったら」

「まあ、これはご丁寧にありがとうございます」


帰ってきた大家こと浅間美哉は名前を和やかに迎えた。
それに対して名前も社交辞令というやつで菓子折りを出した。
テンプレートそのものという感じで、それがまた名前らしくてわらってしまいそうになるのを堪えた。

「それで今日はどこにお泊まりになるんですか?」

「…え?」

「ごめんなさいね、お話聞こえちゃったの」


イタズラした子供のように少しうかがうように笑う大家。
その姿をみて視線を交わす兄妹。
お互いに「ど、どうする?お願いすべき?」と視線で会話。


「よかったらここに泊まってください。佐橋さんの妹さんが困ってらっしゃるんですもの、このくらい協力しますよ」

「ご迷惑じゃ…」

「頼りにしてたお姉さんがダメでお兄さんの所に来たんでしょう?大家の私がいいんですから、いいですよ。くーちゃんも名前さんに懐いているみたいですし。食事は多い方が楽しいわ」

「ありがとうございます、大家さん。そういえば名前はどのくらいいるんだ?」

「お姉ちゃんのところに3日いるつもりで荷物とか持ってきたよ、…でも、そうもいかないから一晩泊まったら帰る」

「3日いらっしゃいな。歓迎しますよ」


これはもう頭を下げるほかない。
二人で勢いよく頭を下げて「本当にありがとうございます!」と声を上げた。







なんだろう…この感覚。

そんないつもとは違う感覚に襲われている篝。
頭がボンヤリとするような、焦燥感に駆られるような。
ただ何かが無性に恋しい。

鶺鴒紋が反応しているような感覚。
そんなはずはない。わかりきってるはずだ。
そう自分に言い聞かせて部屋出てご飯の為に広間に向かうと草野の一緒に遊んでいる女の子が一人。

「!!?あれ、君は…?」

「はじめまして。私佐橋皆人の妹の名前です。いつも兄がお世話になってます」

「そっか、佐橋の…。僕は篝だよ、よろしくね」

「大家さんのご厚意で3日ほどお邪魔します」


そう、よろしくね。といつもの営業スマイルが出来ていただろうか。
篝は不安になった。

そう、多分彼女は自分の葦牙だと直感した。

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