鶺鴒 (8/21)
狼まであと何秒?/焔
女葦牙
「あれ、出雲荘組だ」
「わ…すごい」
「何が?人数?」
「ううん…胸。いいなぁ」
「…………。」
狼まであと何秒?
毎日暑い日が続く真夏。
せっかくの海のシーズンだ、これを使わずに名前と遊ばない手はない。
だからといって一般の海ではゆっくりできないし、何より鶺鴒紋が目立つ。
ならば以前聞いた娯楽施設の海。
ここならば葦牙とセキレイ専用だし、中立地帯だから鶺鴒紋を出していても問題はない。
それにセキレイの主は女性だから名前が男にナンパされる心配もない。
「お待たせ」
「あれ、なんでパーカー着てるの?」
「焼けるから。ね、あそこにいるのって佐橋さんだよね。挨拶してこようよ」
「…挨拶したらすぐ戻ろう。あっちもプライベートだし」
少し焔が不機嫌そうに答えると、名前はよくわかってないのか少し不満そうにした。
名前は佐橋のセキレイ達と仲がいい。
常識から少しズレた彼女達は名前からしたら新鮮で、世話を焼きたくなる存在。
それはいいのだが、佐橋と仲良くされると、こう…ムカッとするのだ。
「もうちょっと愛想良くしなよ焔。出雲荘仲間でしょ」
「いいんだよ、あっちもセキレイつれてるし。なにより月海達が佐橋と仲良くしてるのみたら…」
「別に挨拶しただけで水かけられたりしないよ」
「いや、こっちに被害が…」
ないとも言えない。
彼女のことだ、中立地帯といっても勝負を挑んできかねない。
月海は名前と仲はいいが、何かと焔と勝負をしたがり、それを名前は気軽に「いいよ」と許してしまう。
それが嫌、むしろ名前と佐橋が話すのが嫌なので挨拶をそこそこにして、出雲荘組から離れた所に荷物を下ろした。
「佐橋さんの近くでいいじゃない」
「いやだよ、せっかく休み取って名前と一緒なのに」
「そんなもん?なんか女の子みたい…あ、女の子になっちゃう?」
「名前。そんなこという葦牙様は」
「わっ」
イタズラするように言った名前に焔は手をいきなり引いて座らせ、その背後から抱き込むように腕を回した。
「ちょ、どこ手入れてるの!変態!スケベ!!」
「パーカーの中。さすがに水着の中にまでは入れないよ。あ、入れてほしい?」
「や、ちょ…やだ…」
「あ、あれ名前さんじゃありませんか?」
「あ、おねーちゃんだ!」
「何!?名前がおるということは焔もいるのか!」
「あ、本当です…」
みんなで行きましょうという雰囲気の中、松は気づいてしまった。
あの二人が、いや、主に焔が名前に甘えているのを。
ここで行ってしまったら中立地帯といえど一触即発。
それが無かったとしても、彼女等(主に焔)との関係が気まずくなるだろう。
「み、みんな、あのお二人はそのままにしておきましょう!それがいいですよ!」
「何故じゃ」
「そうですよ、名前さんも誘いましょ」
「くーも名前ちゃんと遊びたいも」
「焔たんはお仕事を休んで名前たんと遊びにきてるですよ。せっかく葦牙と一緒なんです、みんなもみなたんと二人っきりのとき来て欲しくないです?」
松の言葉を聞いて少し考えた三人。
それもそうだと納得すると、出雲荘組はいそいそと佐橋の元に戻った。
松の話で少し佐橋と触れ合いたくなったのかもしれない。
「や、いい加減に…揉むなぁっ」
「えー、結くんみたいに大きいのがいいんでしょ?協力してあげてるのに」
ふにふにふに…。
名前のパーカーの中で動く焔の手。
その手は名前の胸を包み込み、その柔らかさを堪能している。
「僕としては名前のがちょうどいいと思うよ。やっぱり手で溢れるか溢れないくらいが…あ、このままホテル行く?」
「行かない!!焔ぁ!」
「え、…あ!!ちょっと名前!?」
焔のイタズラに堪忍袋の緒が切れた名前。
怒りのままに焔を男から女の体へと変化させ、佐橋の所へと走った。
御題提供:確かに恋だった
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