鶺鴒 (5/21)
陳腐な交じり合い/焔
女葦牙で焔男
篝呼び
「名前」
「うきゃあああ!!!」
陳腐な交じり合い
「かかかかかかか篝、か」
「…うん」
確かにノックしなかった事は悪かった。
それは認める。
しかしこの名前の驚き様は異常だ。
薄暗い部屋に明るいテレビ。
ああ、そうか。
焔は納得した。
「またホラー?」
「う、うん」
「恐いのに観るの?」
「怖いから観るの」
名前は一応焔の葦牙だ。
焔を篝と呼ぶのは名前曰わく「篝の方が呼びやすいから。焔って言いにくいから」とあっさりと彼の本名を否定したのだ。
そんな彼女は今は部屋でホラー映画の観賞中。
怖がりの癖にこういった怖いものをみるのが好きで、声をかけられたり物音に一々叫んだりしてはへこんでいる。
名前は篝が入室したことにより、映画の再生をとめた。
「どうしたの、篝」
「どうしたのって…名前が何してるかと思って」
「ふーん。で、その手にあるのは?」
「ビールとつまみ?」
「それ、どうするの?」
「こうしようかと」
すると焔は素早く名前のいる背後から名前を抱き込む形で落ち着いた。
「篝、暑いよ…」
「大丈夫、ちょうど良くなるから」
「ならないよ、暑いってば」
「いいの?名前怖くて泣くかもよ」
「っ!」
「前に一人で観て怖くて怖くて僕のベッド潜り込んだの誰だっけ」
「ぐっ」
「お風呂も、トイレもすぐちか「篝、そこでいいから一緒に観よう!うん、ね!!」よろしい」
少し悔しそうにする名前だが、焔からしてみたら可愛いものだ。
怖がりのくせにホラー映画が好きだというのも変わっているが、ホラー映画を観た後は必ず甘えてくるから止めさせられない。
彼女の画面を見る目は真剣その物。
画面で動く怪しい影に釘付け、少しでも怖がらせる要因があれば全てに驚くほどの筋金入りの怖がり。
何かある度に揺れる肩も、焔のズボンを握る手も。
「…篝、くっつき過ぎだよ」
「えー、僕もこれ怖いから」
「……」
否定しないんじゃなく、否定できないのはわかってる。
だってこれは、お互いに言い訳をして触れ合っているのを暗黙の了解としているからだ。
御題提供:濁声
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