鶺鴒 (2/21)
守人の咎/結女
・子供主人公
「ゆめちゃん、ゆめちゃん」
「はいはい、なあに?名前」
「おかえり!」
「ただいま、名前」
柔らかく笑う結女。
そして抱きしめた。
守人の咎
結女が抱き上げるのは小さな小さな子供。
抱き上げられた子供は嬉しそうに結女に抱きつき、結女もそれを嬉しそうに受け入れている。
その子供は調整者である浅間健人の親類であり、親を無くして健人に引き取られ、周りの理解もあってこうして神座島にいる。
中でも結女を気に入り、懐いてる。
懐かれた結女も嬉しいのか、よく名前の面倒をみ、世話を焼いていた。
「ゆめちゃん、ゆめちゃんのおしごとはどんなおしごと?」
「私の、仕事?どうしたの急に」
「たけひとちゃんね、みーちゃんとかの、おからだの“ちょーせー”してるんでしょ」
「…そうねえ。皆を守る仕事」
「わあ、セギイのミタカだ」
「正義の味方、ね」
はたから見たら微笑ましい光景だろう。
ただ違うのは名前は人間、しかも子供で結女はセキレイ、懲罰部隊筆頭ということ。
異種である二人が親密になることは普通ではない。
しかもまだ計画も初期の初期。
覚醒しているセキレイも数少ない。
「さあ、報告に行きましょうね」
「ほーこっく、ほーこっく」
きゃあきゃあと喜ぶ名前を抱きかかえ、結女は研究所内を歩いた。
これも恒例化し、子供が好きなセキレイや興味のあるセキレイにはよく声をかけられた。
相棒である烏羽は子供が好きではないよで、研究所に戻るとすぐに結女と分かれた。
「ゆめちゃん」
「なあに?」
「だーいすき。たがら、ずっといっしょがいいな」
「まあ、ありがとう。私も大好きよ、名前。ずっと、ずっと一緒よ。私の葦牙様だもの」
「あちか?」
「とっても大好きで大切な人って意味。まだ名前には難しいかしら」
自分はこんなにも幼い、未熟な子供を葦牙にしてしまった。
結女は名前を愛している。
それは間違いない。
それこそ命を掛けて言える。
ただ、罪悪感を持たないかと問われれば否とはいえない。
名前は未熟で誰かの庇護がなければそれこそ生きていけないだろう。
今はまだ浅間健人がいるからいい。
しかしセキレイがすべて放たれ、バトルが始まったらどうたろうか。
それこそ生き残る。ということが困難になる。
「ゆめちゃん?」
「なあに?」
「おなか、いたい?」
「…え?」
「いたい、いたいのおかおしてる」
「大丈夫、私は正義の味方だからそんなことでは負けません。ね」
セキレイと葦牙は繋がっている。
そう言われているから、きっと名前も感じ取ったのだろう。
感受性の高い子供だ。結女は少しだけ笑った。
「名前、私は、結女はね。絶対に名前を一人にはしません。約束です」
「うん。ゆびきりしたもんね!」
そう、私はこの子を一人にはしない。
何があっても守る。
それが私がこの子を葦牙という戦の駒にしてしまったのだから。
御題提供:濁声
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