鶺鴒 (16/23)
15
「こんにちは」
「あ、名字さん。こんにちは」
へにゃりと人の良さそうな笑顔で現れた青年、佐橋皆人。
彼も名前と同じく葦牙だ。
「あれ、大家さんは?」
「今でてますよ。どうぞ、あがってください」
「ありがとう。あ、これよかったら」
手渡したケーキの箱に頭を下げる佐橋。
そして前と同じ様に客間へ行くと草野と結が仲良く洗濯物を畳んでいる。
名前が挨拶をすれば二人とも挨拶を返してくれた。
ここはいいな、殺伐としてない。
「名字さん、お茶です。どうぞ。二人とも、名字さんがケーキ持ってきてくれたよ」
「わぁい!」
「ねえ佐橋くん。松に用事あるんだけど取り次いでもらっていい?」
女子二人がケーキに沸いているところに佐橋に切り出した。
佐橋は名前の言葉に一瞬キョトンとしたが、本来の人の良さで「ちょっと待っててくださいね」と二階に向かった。
「名前たん、お久しぶりですね」
「久しぶり、松。相変わらずだな…この部屋」
「くふふ。で、なんです?松に用なんて」
「浅間健人」
「…?」
「調べて欲しいんだよ、浅間健人を」
その言葉にあからさまに嫌な顔をする松。
それほど触れてほしくないらしい。
それが大家である美哉の旦那だがらか、セキレイの調整者だからかは知らない。
松が何者かは知らないが、ハッキングに関しては天才だということは知っている。
それでセキレイ事を知っているから嫌な顔をしているのか、もしくは美哉に止められているのか。
「ん…松はぁ、健人たんの事あんまり調べたくないです…よ」
「なんで?」
「んーと、ですね…これは美哉たんのプライベートにも関わりますですし…」
「自分の親戚なんだけど、健人さん」
「あ、ああ、それなら美哉たんに…」
「MBIに関して大家さんに聞いても無駄だろ」
「…そう、ですね。美哉たんはその頃を話したがりませんし。………もう、仕方ないですね」
冷たく笑う名前の背後に背筋が凍った松。
美哉ほどではないが、さすが浅間健人の影響を受けている。
これはうまくしたら般若も夢じゃないですよ。と松は思った。
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