鶺鴒 (15/23)
14
「無理しないこと、いいね」
「しないから」
「あと夏朗に注意すること」
「は?なんで」
「いいから」
「…了解」
ほんの三日間の入院。
しかしその三日間という時間は名前に確実に休息を与え、仕事時間を奪った。
その間の仕事の遅れを取り返さなければと思っていた矢先に鴉羽の忠告。
無理をしないというのは分かるが、壱ノ宮に注意の意味がわからない。
とりあえず「わかった」と言っておけばいいだろう。
「あ、退院おめでとう名字くん」
「ご迷惑お掛けしました」
「大丈夫だよ。あ、前住んでたとこの大家さんに連絡した?」
「大家さん…?いえ、してませんけど」
「したほうがいいんじゃない?」
ほら、君の親戚でしょ?
にこりと笑う壱ノ宮。
確かに大家であった浅間美哉は親戚だ。
名前の親戚と結婚した人だから直接の血縁関係はないが、親戚が死んだ後も面倒をみてくれた。
何故、知っているのだ。
自分は壱ノ宮にも鴉羽にも話していない。
調べたとしてもそこまで調べる必要は無いはずだ。
「え、なんで大家さんの事…知ってるんですか」
「浅間健人さん」
「……」
「セキレイの調整者。主にシングルナンバーを調整。特に前半は彼の調整によって伝説を作る。とか知ってた?」
「浅間、健人…さん」
知っているハズの名前なのに。
どうしてか壱ノ宮の口からでる、その名前は自分の知らない存在の様に感じてならない。
調整者?
伝説?
なんのことだ?
「…覚えてないんだね」
「壱ノ宮さんは…何を知ってるんですか?」
「ごめんね、僕は知らないんだ。調べただけだよ」
「調べる…」
浅間健人さんは、あの浅間健人なのだろうか。
セキレイ関係者であったのなら………。
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