鶺鴒 (14/23)
13
「大家さんて、No.1の美哉でしょ?」
「…夏朗」
病室の入り口にもたれていた壱ノ宮。
鴉羽の姿を見るとニコリと笑って見せた。
「名字くん、昔の事覚えてないんだね」
「調べたの?」
「まあね。まさか葦牙の先輩だったとはね」
「その時のセキレイはもういないけどね」
「あれ、怒った?」
「うん、少しね」
「…名字くん可愛いよね」
「好きにならないでよ、名前は自分のだから」
「えー。名字くんに本気になろうかと思ったのに」
「駄目、紅翼の名前いびりが酷くなったら可哀想」
それは可哀想だね。と笑った壱ノ宮は「仕事に戻るけど鴉羽どうする?」と聞かれたので「今日は終わりにするよ、葦牙があれじゃあ仕事にならないから」と答えると了解と姿を消した。
後になって知ったことだったが名前は結女の葦牙だった。
あの浅間健人のところに居た餓鬼だ。
あの餓鬼なんて正直嫌いだった。
結女の葦牙になり、結女はあの餓鬼の相手で仕事以外では会わなくなった。
当然自分が餓鬼になんて興味なんかないから避けた。
それも子供心に分かっていたのか、会えば大抵の大人の影に隠れていた。
そして結女が機能停止した。
そして浅間健人が、死んだ。
もう結女がいなくなってしまった時点で自分はもう名前に対する感情もなくなった。
「まさか、あの餓鬼が名前とはね」
本当にそうだ。
正直嫌っていた餓鬼が自分の葦牙になったとは。
成長したとはいえ、あの餓鬼だとは思いもしなかった。
それなら葦牙としての素質が高い事にも納得がいく。
なにせよ結女を羽化させたのだから。
名前は自分の事を話すような人間ではなく、今回初めて自分の事を話した。
それだけ弱っていたのか、夢のせいか。
名前の言っていた“××ちゃん”は結女だろう。
あの餓鬼はよく結女を結女ちゃんと呼んでいた。
「結女…少し結女の言っていたことが分かったよ」
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