鶺鴒 (13/23)
12
「ゆ、め…?」
「夢、みてたの?」
「…壱ノ、宮さん?」
うん。と頷く壱ノ宮。
白い天井、消毒液の匂い、白いベッドに傍らには点滴のチューブがのびている。
「名字くん、倒れたんだけど覚えてる?」
「倒、れた?」
「うん。倒れたの」
大変だったんだよ。と軽く笑う壱ノ宮。
倒れた原因はどうやら風邪からきた高熱。
普通ならば仕事になんてこれないくらいの。と壱ノ宮は続けた。
そういえば朝から体がダルかった気がする。
「朝からちょっと顔色悪かったけど、辛いなら言ってくれてもいいんだよ」
「…悪い自覚がなくて。ただ、ダルいなって」
「甘えてもいいんだがら」
「それば駄目だよ、夏朗。名前は自分のなんだから。ほら帰った帰った」
「こら、鴉羽…」
「えー」
ひょっこりと顔を出した鴉羽。
どうから鴉羽は壱ノ宮が名前を口説いているとでも思ったらしく、少し睨みを効かせている。
壱ノ宮の方も少しからかっていたようで、「鴉羽が怖いから帰るね。無理しないようにね」と手を振って病室を出た。
「心配したよ、名前」
「…ごめん」
「朝から体調悪かったんだって?」
「…うん」
「だから言ったのに、休めって」
「…悪い」
でも良かったよ。と安心した様に鴉羽が笑った気がした。
気がしたというのは、いつも変わらない表情だったからだ。
ほんの少し、微妙な変化を感じたからだ。
「鴉羽、ありがとう」
「うん?」
「鴉羽がいたから仕事にもつけて、こうして病院にもいれる。心配までしてくれて」
「…どうしたんだい、急に。名前らしくもない」
ぽそりと、名前が呟く様に零した言葉。
「夢を…みたんだ」
その言葉に鴉羽は微かに反応した。
それは本当に微かで、名前にも誰にも分からない程の。
「小さい頃の自分が泣き喚いて、それを親戚の人と大家さんがあやすんだ」
「大家さん?」
「前に住んでた出雲荘の大家さん。親戚の人の奥さん。それがさ、夢だから今と変わらない姿でさ」
知ってるよ、美哉はNo.1だからね。とは言えない鴉羽は名前の言葉にただ頷いて話を聞いていた。
名前の親戚も知っている。
浅間健人だ。
研究所でその二人と名前が居たのを見ている。
「ねえ名前、なんで名前は泣いてたの?」
「…分からない。なんだが何かを探してたみたいで、でもそれが見付からない」
「……」
「名前が聞き取れなくて、“××ちゃん”“××ちゃん”て、誰か呼んでるんだ。それから…」
「名前、もういいから休んで」
「…そう、だな。うん、」
おやすみ。と鴉羽が名前に言うと、名前は小さく頷いて返した。
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