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鶺鴒 (11/23)
10

「りんご?」

「貰い物。名字くんにもあげる」


はい。と渡された林檎。
赤く色付いて、甘い香りがふんわりと漂ってくる。
最初にその林檎を目にしたのは仕事場に入ってから。
壱ノ宮のそばに紅翼と灰翅。
もしかしたらこの二人が一緒にいるところを見るのは初めてかもしれないなと思いながら挨拶した事に始まった。
壱ノ宮の手には複数の林檎。
そしてセキレイ二人にも。
何の気なしに聞いたら貰ったわけだ、林檎を。


「林檎食べる?」

「え、今ですか?」

「うん、なんか二人食べたいって言い始めてさ」

「これでも私ら忙しくて一働きしてきたの。文句ある?」

「…ククク、紅翼、名字には強気」

「ないでーす。お仕事お疲れ様でーす」

「じゃあ剥け」

「……は?」


意地悪く笑う紅翼。
それはもうドロドロドラマで見るようなイジメ役の様な。
相変わらず壱ノ宮はただニコニコ笑うだけ、灰翅は灰翅で何を考えているか分からない。
多分、いや、恐らくこの場で一番下っ端は名前。
紅翼と灰翅は壱ノ宮(先輩)のセキレイ。
ついでにいうなら新参者なのだ、名前は。
これも仕方あるまい、変に抵抗して紅翼にいびられては面倒だ。
そう思った名前は林檎を持って給湯室に向かった。




「あれ、名前は?」

「紅翼がパシらせたよ」

「え、ちょっと夏朗…っ」

「…ククク…紅翼、名字顎で使った」

「灰翅ぇ!!」

「へえ?」


仕事場に姿を表した鴉羽が己の葦牙を探すが見あたらない。
居るのは同僚とその葦牙。
この時間この場にいるはずなのだが。
不思議に思った鴉羽が問えばあっさりと見つかった。


「紅翼はまた名前を、ねえ」

「ちょ、誤解、誤解だってば」

「いや、誤解じゃないだろ」

「名字くんおかえり。あ、ウサギ林檎だ」


戻った名前の手にはリンゴウサギが数個、それに普通に盛られた剥かれた林檎。
それをデスクの上にトンと置くと、それをみた壱ノ宮が反応を示した。


「名前、いちいち紅翼の言うこと聞かなくてもいいんだよ」

「一応先輩のセキレイだし…無視は、なぁ」

「ほら、紅翼。名字くん器用だね。リンゴウサギ。灰翅も」

「…うさぎ」

「二人ともこれくらいできたら良いのにね」


最後のトドメと言わんばかりの鴉羽の一言。
紅翼が壱ノ宮に好意を持っているのは誰が見ても明白だろう。
ただ好意を持っているのは灰翅も同じで、壱ノ宮はそれらに興味がない。


「本当だよ、二人とも名字くんくらい器用で繊細なら良かったのに」

(繊細…か?)

(いいんじゃない?夏朗が誉めてるんだから)

「え、なにコソコソしてるの?」

「いや、なんでもないです」


ほら、名字くんがせっかく剥いてくれたんだから食べなよ。と壱ノ宮は言いながらモグモグと口を動かした。
ただ、それに従って食べる紅翼と灰翅、主に紅翼に睨まれた様な気がしたので鴉羽の影に隠れるフリをした。

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