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鶺鴒 (8/23)
07

「………おい、鴉羽」

「んー…」


起きてまずいちに感じたのは違和感。
無駄に広いベッドだからただの違和感だったが、明らかに何かが潜り込んでいる。
名前以外にこの部屋にいるとしたら一人。
鴉羽だ。
ばっと勢いよく捲ればそこにはやはり鴉羽が寝ている。


「ああ、おはよう」

「おはようじゃない、なんで鴉羽がここで寝てる」

「朝はおはようだろう」

「挨拶は後、なんでここで寝てる。鴉羽の部屋はここじゃないだろ」

「別に減るもんじゃないんだから良いじゃないか」

「いや良くないし。もう少し鴉羽は慎みってやつを持った方がいいんじゃないか」


そもそも鴉羽と一緒に寝る間柄になったつもりのない名前。
各自同居ながらも部屋を割り当てられているわけだから、一緒の部屋、ましてや一緒の寝床を使う必要はまったくない。


「いやぁ、なんとなく」

「…なんとなくで部屋に入るな」

「じゃあ名前と一緒に寝たかったからは?」

「却下。」

「それじゃあ、護衛」

「いらない。そもそもMBIの管理地なんだから必要ないだろ。それに葦牙ねらうの御法度だし」


そのあと食い下がる鴉羽に説教する事小一時間。
うっかり遅刻しそうになり、朝食を抜いて走る通勤。
そんな様子を会社の窓から見ていた壱ノ宮に「寝坊?珍しいね」と笑われ、鴉羽が余計な事を言わないようにさっさとわかれた名前。


「あー…腹減った…」

「なに、ご飯も抜いたの?」

「…はい、ちょっとそれどころじゃなくて」

「鴉羽とケンカとか?」

「まさか、ケンカなんてしてませんよ。説教しただけです」

「説教?」


まあ、もう少し女の子らしくしなさい。という、ね。
と何とも曖昧に答えると壱ノ宮は鴉羽にそんな事言えるのは名字くんだけだよ。と笑った。
確かにMBI、しかも懲罰部隊筆頭ともなれば誰もが恐れる存在に近い。
そんな鴉羽に好き放題言えるのは社長か葦牙くらいだろう。


「夏朗…」

「あ、灰翅どうしたの」

「ハイハネ…?」

「…鴉羽の、葦牙」

「そうそう、名字くんね。名字くん、灰翅だよ」


のそっと現れた一人の包帯姿の女性。
名前を葦牙というからにはセキレイ計画関係者だろう。
名前からして鴉羽や紅翼に近いから、彼女もまたセキレイで懲罰部隊だろうと名前は推測した。
それに着ている物もどことなく懲罰部隊の二人に似ている。


「報告書、持ってきた」

「ああ、ありがとう。…紅翼のは?」

「…知らない」

「そっか」

「………」

「な、何か?」

「……別に」


なんだ、この無言で迫る視線…。
とにかく無言でジーッと見詰めるのはやめてもらえないだろうか…。
しかしながらそんな事をいう勇気がない名前。
しかも獲物を手にしているから余計に言えない。
言って機嫌を損ねて攻撃されてはたまったもんじゃない。
名前は冷や汗をかいている。
セキレイが葦牙を狙ってはいけないというルールがあるが、それを守るセキレイが全てではない。


「灰翅、名字くん見つめられて困るって。やめてあげな」

「………」

「はい、いいこ」

「…いいこ」


少し嬉しそうにした灰翅を見た名前は思った。
鴉羽もああやって笑ったりするのだろうか。と。

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