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鶺鴒 (7/23)
06

「ただい…あれ」


電気がついていない。
鴉羽がいない。
まだ仕事が終わっていないのか、それかどこかへ出掛けたのか。
暗闇の中で留守番電話があったことを知らせるランプが点滅している。
流石に賑やかに過ごした出雲荘の後ではやはり寂しく感じてしまう。
折角大家さんが持たせてくれた料理があるのに。
仕方ない、とりあえず電気を付けよう。
そう思って靴を脱いだ。




「ただいま、名前」

「おかえり、鴉羽。遅かったな」

「うん。ちょっと、ね」


そう鴉羽が答えると名前はいつものように「そうか、お疲れ様」と答えた。
名前が手招きをするので何かと思ってリビングに行くと、テーブルの上には料理。
「作ったの?」と問えば「いいや、貰いもん」と答える名前。


「名前の夕飯は…外食かな」

「前の大家さんにご馳走になってきた。これはその大家さんが持たせてくれた料理。鴉羽、夕飯は?」

「まだだよ」

「ちょうどいい、これ美味しいから食べなよ」

「そうだね、いただこうかな」


食べてみると確かに美味しい。
流石No.1、といったところだろうか。
名前が前にいた下宿先は出雲荘。
その大家は浅間美哉、セキレイNo.1、初代懲罰部隊筆頭。

鴉羽は名前が出雲荘に居たことを知っていた。
それは自分の葦牙を知っていたのと、護る為だ。
もうそろそろ名前が大家に挨拶に行くと言う頃だと思っていたし、自分が今美哉と対峙するわけにもいかない。
だからといって名前に行かないように引き留めては名前に変に怪しまれる。
怪しまれたところで名前も深く鴉羽に言及はしないだろう。
だから、あえて名前から離れた。
離れたと行っても、実は後を追っていた。
遠く、美哉や鴉羽からしてみたら範疇ではあるが名前の身を見守っていた。
それは恐らく美哉も気付いていたはずだ。
ただこちらが仕掛けなければあちらも仕掛けない。


「そうそう、名前、これからはあんまり一人で外出しちゃ駄目だからね」

「はいはい」

「一応は葦牙なんたがら、葦牙らしくしてよ」

「はいはい」

「返事は一回ね」

「はい」

「まだ第一段階たがら良いけど、第二第三となったら危ないからね」

「はいよ」


名前はセキレイ計画に無関心なのか、鴉羽に無関心なのか、それとも自分に無関心なのか分からないが鴉羽の忠告を適当に流している。
鴉羽が送り迎えをする事も、食事を一緒に取ることも、全て名前は鴉羽が生き残る為のモノだと思っている。
確かに間違いではない。
葦牙が命を落とせば、それすなわちセキレイの死だ。
強いセキレイを持つ葦牙であれば、ルール違反ではあるが葦牙を殺すの手っ取り早く被害が少ない。
セキレイから見たら人間は非力。
殺すのは容易い。
だからセキレイは護らねばならない。
だからといって葦牙と婚がなければセキレイ本来の力は発揮されないどころかセキレイ計画自体にも参加する資格がない。
そもそも鴉羽は壱ノ宮夏朗と婚ぐ予定だった。
懲罰部隊の紅翼、灰翅と羽化させた人物だ。
申し分ないはず、だった。
なんとなく気が向かなくて、散歩がてらにビルの合間を抜けていた見つけた人間。
別に同情するとか、面白がるといった下心があったわけではない。
なんとなく、そう、なんとなく声をかけた。

そんな名前は一回全てを諦めていた。
名前が自分で語ったわけではない。
鴉羽が感じ取ったのだ。
過去に諦めながらも、今また動こうとしている名前に何か感じた。
そうしたら粘膜接触していた。


「…鴉羽?」

「うん?なに?」

「いや、ボーッとしてから」

「名前とね、初めて会ったときのことを思い出しててね」

「ああ…痴女め」

「ちじょ?」

「いきなりキスしやがって」

「そんな事言うと、またキスしちゃうよ」


すると鴉羽は怪しく笑った。

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