UN-GO (1/2)
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「あら、可愛いお客様」
「名前…お前、また…」
「名前ちゃんだー!久しぶり、今回のお仕事長かったねぇ」
今回は遠かったから。
そう名前と呼ばれた女性は笑って見せた。
結城新十郎、彼が拠点としている部屋の扉を開けたなら、一人の女性が何食わぬ顔で過ごしている。
「さあお嬢さん、こちらのソファへ。お茶でよろしいかしら」
「名前、勝手に入るな。そして勝手に接客を始めるな」
「…あら、貴女人間じゃないのね。どうしましょう、何を出したらいいのかな…ねえ新十郎」
「流石名前ちゃん!」
「それは客じゃない名前」
「それで、私の正体を見破った貴女は何者ですか?」
「それはご自身で調べたら早いのでは?佐々風守さん」
にこりと笑った名前。
ただ名前を呆れたように見ている新十郎、そして嬉しそうにしている因果。
そんな二人に名前は「二人はお茶?そうそうお土産もあるのよ」と楽しそうにしている。
「おい名前…」
「何?新十郎。あ、因果ちゃんが好きそうなのもあるよ」
「本当?わーい名前ちゃんだーい好き!」
「…わからない」
「ん?」
「貴女は誰ですか」
「名前ちゃんは、名前ちゃんだよー。ねー?」
ねー。と笑う名前と因果。新十郎はまだどうしてみようかと困った様子。
そんな新十郎にお構いなしに名前は茶の準備を始めた。
その後ろに因果はパタパタとついてまわり、「お土産お土産ー!」と騒いでいる。
「それで彼女は何者なんですか」
「…名前自身に聞いて答えたのが名前だ」
「意味がわかりません」
「それを名前は望まないからだ」
「貴方の“応え”は“答え”ではありません」
それから風守も新十郎も黙った。
それがイタチゴッコだというのが風守がわかったからだ。新十郎が答えを教えるつもりがないと。
風守をもってしても解らない存在名前。因果と同じ様な存在なのか。
沈黙は名前が持つ盆と、因果のはしゃぐ声によって直ぐに終わった。名前の持つ盆の上には茶器。それが小さな音を立て、因果は菓子が入っている箱を持っている。
「さあさ、お茶でも飲みましょうよ。風守さんは、何がいいのかしら。オイルの類は多分無いと思うんだけど、ねえ新十郎」
「…発想が随分昔ですね。私の事は気にならさないで下さい」
「名前の発想は古いんだ」
「わー!僕これ!」
「どうぞ。新十郎も。とは言っても、目の前で何も出さないっていうのも…なんだか心苦しいものね」
「ならお前は勝手に人の部屋に入るのを心苦しいとは思わないのか」
「それとこれでは話は別よ」
新十郎の嫌みに名前は、まるで息を吹きかけて飛ばす様にあしらった。
新十郎はそんな名前を怒るのかと思えば、そんな事もなく溜め息をついて菓子に手を伸ばした。
「そうだ、私の事わかった?」
「いいえ」
「そうか、そうね。そうよ、ええ」
「探偵ですか?結城新十郎と同じ、いや、知名度でいえばかなり差があるでしょうが」
「違うわ、ハズレ。私は存在を消された…そうね、とある人の秘密道具といった感じ?」
ふふふ。と名前は楽しそうに笑った。
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