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鶺鴒 (6/23)
05

「出掛けるのかい?」

「あー、うん。前の大家さんに挨拶もなしに引っ越ししちゃったから、今から挨拶してこようかと」

「自分はちょっと用事があるから一緒に行けないけど、気をつけるんだよ」

「んー」


珍しい。
いつもであればコンビニでも外出するときは何かしら理由を付けて付いてきたのに、今日は付いてこない。


「なに?自分がいないと寂しい?」

「いや、それはない。ただ珍しいなと思って」

「自分にも仕事があるからねえ。知らない人について行っちゃ駄目だよ」

「はいはい」

「いってらっしゃい、名前」

「いってきます、鴉羽」


今日は休日だから街はざわついている。
やはり休みなのだからこうでなくては。
しかし鴉羽の仕事とは何だろうか。
一緒に生活しているが鴉羽の事はよく知らない。
名前に自分の時間があるように鴉羽の時間があるのは当たり前だ。

鴉羽と暮らし初めて数日。
やっと落ち着いた休日になり、やっと前世話になっていた下宿先に挨拶が出来る。
前の下宿先の大家は怒ると怖いが、とても良い人だった。
他人でしかない名前に親身になってくれ、何度も何度も励まし、弁当まで作ってくれた。
下宿仲間も個々が強くて、少し気圧されながらも仲良くしてはいた。
そうだ、大家さんが好きだった和菓子を手土産にしよう。
あそこの和菓子は大家さんだけでなく仲間の好物でもあったはずだ。
いきなりいなくなった自分は大家さんに怒られるだろうか。
仲間には嫌みを言われるだろうか。
でも、少しでも心配していくれたら嬉しい。

そう思いながら名前は目的地に向かった。





「ごめんくださーい」

「はーい、今行きますねー…まあ、名字さん」

「スミマセン、いきなり来ちゃって。しかもまたいきなり出て行って」

「あらあら、いいのよ、お仕事見つかったんでしょう?おめでとうございます。でもお祝いする前に、ねえ。さあ上がって上がって。お茶を出すわね」

「あ、これよかったら」

「ありがとうございます。これ、あそこのお菓子ね。美味しいのよね、私大好き」


大家さんは名前を招いて客間へと通し、お茶と名前の買ってきたお菓子を出してくれた。
それから「お仕事は大変?」「無理しちゃだめよ」「お友達はできた?」「朝は早いの?夜は遅くない?」「ご飯はちゃんと食べてる?栄養偏ってない?」とまるて母親の様だ。
それに対して名前は丁寧に返答した。
仕事の事、上司(先輩)の事、友達と呼べるか分からないが鴉羽や紅翼の事。
食事はちゃんと食べているし、しかも栄養の面でも心配ないこと。


「名字さんが元気そうで何よりです。皆さんいきなり名字さんが居なくなって驚いてましたよ、もちろん私も」

「すみません、本当急で。自分でも驚くくらいで」

「急に環境が変わって無理してませんか?」

「はい、大丈夫です。遅くなりましたが、お世話になりました」

「一人店子がいなくなるのは寂しいですが、門出を祝わなくてはいけませんね。今日のお夕飯は家で食べませんか?遅くなりましたが送別会です」


ニコリと笑う大家。
たしか名前が仕事を辞めた時も「新たな名字さんの門出です、今までの名字さんとの送別会をしましょうか」と優しく言ってくれたのを思い出した。
名前が「はい、ごちそうになります」と頷くと大家は嬉しそうに笑った。

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