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鶺鴒 (5/23)
04

「名字、名字は夏朗の事どう思ってるわけ?」

「……は?」


昼休み、いつもであれば鴉羽が来て一緒に食事を取っていたのだが今日は違った。
鴉羽と一緒にやってきた紅翼か鴉羽を押しのけて名前を捕まえて「黒、名字ちょっと借りるから。夏朗とご飯食べて、今回だけ」と言いたいことを言って、文字通り名字を引っ張ってきたのだ。
そして目の前に出された社員食堂のメニュー。
テーブルを挟んで紅翼が名前に睨みつけるように問いかけた。


「どう…って、何?」

「どうって、どうよ!夏朗に色目なんて使ってないでしょうね!?」

「何故色目を使う必要が?」

「だ、だって夏朗格好いいじゃない?同性異性関係ないの!夏朗に色目使っちゃ駄目なんだかんな!」

「使わないし。だいたい壱ノ宮さんの事そんな風に見ないから」

「本当か、本当にか」

「むしろ紅翼と壱ノ宮さん応援してるから」

「え、やだそれ本当?」


いやーん。と先ほどの態度とは一変して照れまくる紅翼。
壱ノ宮のセキレイは紅翼しか面識がないが、これは重症なのか普通なのか。
セキレイについて自分なりな調べた…いや、壱ノ宮や鴉羽に聞いた限りだが、セキレイは葦牙を“愛”するそうだ。
例外も確かにあるが、葦牙になられてしまうと否応なく従うほかないらしい。
それが鴉羽にも通ずるかと聞かれたら名前は悩む。
名前は鴉羽に命じた事もないし、鴉羽に愛されていると思うこともない。
送り迎えに愛があるかと聞かれれば無くはない。と言うほかない。
それは自分の命を護る一つの手段だからだ。
名前が死ねば鴉羽も死ぬ。
ただの人間である名前が他のセキレイに襲われれば命を落とすのは想像するに足らない。
だから鴉羽は自分が死なないように護る。
おそらく彼女にとっての自分の価値はその位だ。


「もういい?お腹空いた」

「いいよー!もうじゃんじゃん食べちゃってよ!」

「(別にお前の奢りじゃないだろ)はいはい、いただきます」

「黒の葦牙が名字でよかったよーいや、マジで。これが夏朗に色目使う奴だったろ殺すとこだった」

「恐ろしいな」

「うっせ」


恋する乙女はなんとやら。
紅翼を下手に刺激したら後が怖そうだ。
とりあえず彼女が壱ノ宮を溺愛…いや、ゾッコンなのはわかった。
これは下手に壱ノ宮の機嫌を損ねられない。
うっかりそれが紅翼の耳に入ったら、それこそ自分の命に関わってしまう。
一人で壱ノ宮について語り出した紅翼に適当に相槌を打ちながら昼食をとる名前。


「まあ黒の趣味ってわからないよね」

「ん?」

「あんたみたいなのを葦牙に選ぶ辺りさー、ホントわかんない。あのまま夏朗選べばよかったのに」

「そしたら紅翼、ライバル増えるぞ」

「あ、そっか。じゃあ結果オーライ」

「つか、鴉羽の葦牙って壱ノ宮さんの予定だった?」

「そーそー。だけど黒のやつさ、ふらーと出てったと思ったらアンタ連れてきたの、私の葦牙雇えって」

「ふーん」

「だいたい夏朗の方が葦牙としての能力も上なのにアンタみたいな奴が、ねえ」

「葦牙にも能力があんの?」


そう名前が問うと紅翼はガチャンとフォークを落とした。
そんな事も知らないのか?という、哀れみと小馬鹿にした様子で名前をマジマジと見る紅翼。
やはり馬鹿にした様子で鼻で笑い、「この紅翼様がわかってない名字に教えてあげる」とかなりの上から目線で葦牙の能力について講義してくれた。


「へえ、そりゃ確かに壱ノ宮さんが葦牙だった方がよかったかもね」

「………は?あんた馬鹿?」

「だって紅翼の他にももう一羽いるんだろ、セキレイ」

「でもいきなり私を羽化させた名前はある意味驚異なんだよ」

「そうそう。それに僕女の子興味ないから女のセキレイって疲れるんだよね」

「そんな夏朗ぉ」


名前の背後から降ってきた声。
それはある意味話の中心だった二人。


「紅翼、今名字くんを馬鹿にしてなかった?」

「それは聞き捨てならないなあ。自分の葦牙だよ?紅翼」

「ば、馬鹿になんてしてない、してないよ!ねえ名字」

「さーね」

「ちょ、裏切んな!」

「手ぇ組んだ記憶ないし」


きぃーー!!と内心叫ぶ紅翼、それを睨む鴉羽、無言で威圧する壱ノ宮。
それをかいくぐって食堂のトレーを戻しに行く名前。

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