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鶺鴒 (4/23)
03

「じゃあ名字くん、これお願いね」

「はい」

「あと次の会議で使う資料なんだけど」

「それなら出来てます、確認お願いします」

「早いね、感心感心」


実際仕事は極々普通だった。
同僚も壱ノ宮さんだけ。
上司もなし。
そもそも二人だけの部署、しかも部長がいないのもおかしい。
それもセキレイ関係だと思えば納得できるのだが。


「その後どう?鴉羽と仲良くしてる?」

「それ昨日も聞いてきましたよね」

「えー、そうだっけ」

「聞くまでもないでしょう壱ノ宮さん。毎日毎日鴉羽迎えに来て一緒に帰ってるんですから」

「ほら、一応先輩と関係者として二人の関係をしっかり把握しないとね」


面白がってるの間違いだろ。と突っ込みを入れたいがやめておいた。
鴉羽とは一応一緒に暮らしてはいるが、これといった関わりは持っていない。
一緒にご飯を食べ、一緒に出社、退社くらいだ。
葦牙とセキレイの関係を把握しているわけではないが、ほとんどルームシェアしているような感覚。
ただあの住まいは楽過ぎて身の置き所がないのが正直な所だ。
朝起きれば食事が出来ており、掃除洗濯もそれ専用の職員がいる。
下着まで綺麗に畳まれてクローゼットの中にあった時には気が遠くなった。


「夏朗!」

「あれ、紅翼」

「えっへへー迎えにきたよ!」

「もうそんな時間だっけ。あ、名字くん、この子紅翼」

「は、初めまして名字名前です」

「知ってる黒の葦牙でしょ」

「黒…?葦牙って…まさか」

「そう、セキレイだよ」

「迎えにってことは、まさか壱ノ宮さん…」

「私の葦牙だよねー夏朗」

「一応ね」


余程壱ノ宮の事が好きなのだろう、やたらとぶりっこをする紅翼。
それはもう名前の目から見ても明白で。


「あとね、もう一人いるんだ」

「へ、へえ…」

「ね、夏朗。今日は寄り道しよっ」

「寄り道?」

「どうせ蒼は仕事中だしさ、ね」

「えー」


顔には出してはいないが嫌そうな雰囲気が少し漏れている。
それは紅翼には伝わっていないようだが、名前には感じとれた。
鴉羽に「夏朗は女の子に興味ないんだよ」と言われていたせいかもしれないが。


「…なんだよ、何見てんだよ」

「あ、いや…スミマセン」

「名前ー…あれ、紅翼」

「げ、黒…」

「んー…、紅翼、うちの葦牙に何かした?」

「し、してないしてない。」

「紅翼ね、名字くんにちょっとガンつけたんだよ、たった今」

「ちょ、夏朗!?」

「そっか、名前にガンつけたのか。怖かったね名前。ごめんよ、紅翼にはあとで絞めとくから」

「ぎゃああああ!ご、誤解だよ黒!」


涙目、いやむしろもう泣いている紅翼。
多分でしかないが鴉羽は物凄く彼女にとって恐ろしい存在なのだろう。
葦牙である名前から見たら怖いというより何考えているのか分からない存在だが。
それに自分が死んだら鴉羽も死ぬのだと聞いた。
確かにムチャクチャな存在であるセキレイだがらそういうモノも必要なのだろう。
だからセキレイは葦牙を護るだろう。
葦牙がいれば必殺技も使えるとも聞いていたし。


「鴉羽、それ壱ノ宮さんの勘違いだから気にしない。ね、紅翼。紅翼は烏羽の葦牙を観察してだけ、な?」

「う、うん、そう、そうだよ!」

「ふーん?」

「ほら、支度終わったから帰ろ鴉羽」

「そうだね、じゃあまあ明日」

「ばいばーい」

「ま、また明日、ね黒…名字」

「お疲れ様でした、お先に失礼します」


鴉羽がまつドアの手前、壱ノ宮の側にいた紅翼が小さな声で、それこそかすかに名前に向かって呟いた。
「あ、ありがと」
と。

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