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鶺鴒 (3/23)
02


「じゃ、明日からよろしくね名字名前くん」

「は、はい…」

「住まいは鴉羽と同じ部屋でいいよね」

「構わないよ」

「いや、構います。構いますから」


え、なんで?とキョトンとする二人。
一人はいきなり自分にキスしてきた女、もといオネエサンの鴉羽。
そしてもう一人はMBI社員の壱ノ宮夏朗、明日からの上司らしい。


「だって名字くん、君鴉羽の葦牙なんだから一緒なの普通でしょ?」

「あ、あの、そのアシカビってなんですか?」

「鴉羽、説明してないの?」

「あれ、言ってなかったかな」


まったく…と少し困ったような素振りをしたが、読めない表情で名前に説明する壱ノ宮。
ただ名前はそれを聞くばかりで、ただ「はあ」と曖昧な返事を返した。
それはなんだから質の悪い冗談、何を目的で作られたかわからない映画かアニメ、ゲームのようだ。


「それに、一応御法度だけど葦牙を狙うセキレイもいるだろうから鴉羽がいないと死んじゃうかもよ」

「夏朗は軽いなあ。ほら、名前がもう呆けちゃってるよ」

「あれ、本当だ。大丈夫?あ、ちなみに夢じゃないから現実逃避しないでね」

「名前ー?ほら、戻った戻った。名前の欲しがってた仕事だよ」

「違…欲しかったのは、普通の仕事で」

「基本的には普通の仕事だよ、普通に仕事してるだけだよ。違うのは鴉羽の葦牙で、鴉羽は懲罰部隊の筆頭なだけだよ」

「それが普通じゃないです」

「仕方ないよ、MBIだもの」


投げた、投げやがったコイツ!
名前は心で泣いた。
確かに仕事につきたかった。
大きな望みはしない。
小さくても正社員で、ちょっとの残業をして帰宅して風呂に入って、上がったらビールとは言わなくても発泡酒飲んで寝る。
そんな日常に憧れを持っていた。
MBIといえば一流企業で夢の夢、そのまた夢というような会社だ。
それに入社できるというのは凄く、もの凄く嬉しい。
しかし、しかしだ。
そんな得体の知れない鶺鴒計画を唐突に言われ、しかもアシカビだのなんだの言われてそう易々と浮かれて入られないのが現実だ。
しかも鴉羽という女性はいきなりキスしてくる痴女だ。


「あ、の。この話はなかった事に…」

「ならないよ。拒否した場合大変な事になるよ。MBIが全力で君を邪魔しちゃうからね」


邪魔って何。ねえ、邪魔って何。
そう喉を言葉が通り抜けそうになったが必死に飲み込んだ。
壱ノ宮は軽い様相ではあるが、この言葉にはかなり重い何かがある気がしてならない。
逆らえば恐らくは邪魔というなの制裁があるのだろう。


「採用は嬉しいのですが、そんないきなり住まいを変えろと言われましてもこちらとしても困りまして…」

「ああ、大丈夫。今頃君の住まいにはうちの会社の引っ越し屋が手配されてるから」

「ああ、そうで…え?」

「鴉羽から羽化したのは君が来る前に情報は着てたからね。ほら、鴉羽筆頭だからその葦牙にはそれなりの対応をね」

「……さ、左様ですか…」


帝都怖い。
帝都超怖い。
名前はやはり心の中で泣いた。

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