etc | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
pkmn2 (19/20)
栄光と書いて狂気と書く場所

その場は歓喜というよりも狂気に飲まれて場所だった。
あの日、あの時。ガラルのチャンピオンに挑んだ場所。それを今名前は初めて客観的に観ることになった。
恐ろしい程に晴れ上がった空、太陽は輝き、揺れるスタジアム。観客席にはダンデを応援する横断幕にくわえ名前の横断幕も多く見える。名前の横断幕には手持ちのポケモンのイラストが入ったものも目につく。

「……すごい」
「まだ始まってないぞ?凄いのはここでアニキと名前選手がバトルしてからだ!」

当時のローズ委員長がファイナルバトル前の挨拶をし、そして選手二人が立ち位置につく。
その間の静寂は今までの狂気からは感じられないほどの闇の様だ。冷たく、痛く、そしてそこには様々な感情が渦巻いている。それは選手ではなく観客の方に、だ。
チャンピオンが勝つ、いやチャレンジャーが、楽勝、首の皮一枚、辛酸をなめるか、引き分けはない。
審判の開始の掛け声がかかると同時に二人がポケモンを繰り出すより早く観客の悲鳴のような歓声がスタジアムを満たす。

「ここの!ここの兄貴のドラパルトが凄いんだ!それで名前選手のファイアローの技のかわしが凄いんだ!全部かわすんだぞ!!」
「わあ…」
「な!すごいだろ!他の選手も凄いけど名前選手のあのファイアローの動きは初めてだ!ニトロチャージの精度が違うんだ!」
「ホップホップ、本人だよその人」
「こう見ると私結構な戦い方してましたね…びっくり…」
「え、あ、そっち?当時名前っていえばかなりファンがいたよね」
「期待の新星名前選手!って雑誌もにあったけどどれもインタビューはなかったな」
「キバナも名前あげてたしな」

へー。と名前も他人事の様に言う。その辺りはキバナとダンデは慣れているがそうではない二人はギョッとした様子で名前を見る。
当時あれだけ人気があったにもかからずメディアにでる事もなく、またその姿を見る人も少なった名前。かいくぐるには色々とその手のプロがいるのでは?とか巨大プロダクションの新人で隠しているとかささやかれたもの今では懐かしい話題ではあるが、本当の所はただたんに名前は人のいないところをあえて選んで全力疾走の如くいどうしていただけである。全力疾走するにも限界があるが、名前の場合アローラで培ったローラースケートを駆使していたので楽ではあった。

「私こんなバトルしていたんですね…」
「……してたって?自分の事だろ?」
「いや…色々必死だったので…記憶が曖昧で…」

は、ははは…と自分の事なのに完全に引いた笑いをしている名前。
ただ注意しておかないといけないのは、名前はチャンピオンになりたいとかチャンピオンに挑みたいが故に行動したのではない。空港で見た映像に自分がどれだけ進めるのかに挑んでいただけだ。それが結果的にチャンピオンに挑むところまで行っただのであって、途中で終わっていたらいたでへこむ事も無ければ「ここまでだった」とすんなり終わらせていた。再度ジムチャレンジをすることもなく、だ。

「……え」
「いや、はい…嘘じゃなくて…勢い付きすぎて…周りがよく…見えていなかった、というのでしょうか…博士たちにも言われるんです、そういうの良くないって…」
「おお!名前選手は凄い選手なんだな!その勢いでポケモンたちも引っ張られてお互いの相乗効果であれだけのバトルが出来るんだな!」
「プラス思考の権化…」
「あ、ちょっとホップ黙ってて。じゃあ、名前はあの時、この大会、ダンデくんとバトルしたのは、色々と勢いってこと、なの?」
「…………はい」

えー!!と家が揺れるような程の驚いた声が響く。
奥に居たダンデとホップの母親が「どうしたの?」と顔を覗かせたがホップが元気に「なんでもないぞ、母さん」と言えば「そう?」と気にした様子もなくまた戻って行った。
しかし今はそれよりも名前だ。名前は勢いでバトルをしてあそこまで行き、そして姿を消したとでもいうのか。

「…アローラからきて、空港でエキシビジョンマッチを見て、リーグに参加して…あそこって感じです………バトル自体は、まあ…前から、ちょっとは…したことはありましたけど」
「……才能って、やつ?へー天才っているのね」
「あ、いや…そんなものでは、ないと思います…」
「多分センスが元々あったんだろうな、アローラのククイ博士だって相当なトレーナーだし島キングってのもジムリーダーみたいなもんだって聞いたし。そのバトルやらを見てれば自然と…か?」
「そうか…トレーナーにバトルの映像を見せるのはかなり有効なトレーニングになるということだな!よし、来期のジムチャレンジャーの育成項目の重要度をあげるか」

と話題が尽きない。
来期のチャレンジャーには、いやジムトレーナーにも、だの。
そんな名前を置き去りにしているとホップが名前の腕を引っ張る。そしてテレビ画面を指さす。
どうやらもう画面を気にするのはホップだけだったらしく、困惑していた名前に気付いて「なら一緒にバトルをみよう」と言わんばかりに笑った。頷いたはその輪からそっと抜けて画面に一歩だけ近づく。

「名前選手はニンフィアが一番の相棒なのか?」
「え…一番長い付き合いではある、かな」
「アニキはリザードンがエースだろ?なのになんでニンフィアなのかと思ってな!」
「相性であればミロカロスだから?」
「そう!でも最後の大技と大技のぶつかり合いは凄いな!あれは信頼しているから全力が出てるって感じだ!」
「……………」
「ここ!ここの指示が凄いんだ!!」

画面ではニンフィアとリザードンがお互いの雌雄を紙一重で競い合い、そしてそのトレーナーたる二人も大きな声を張り上げながら指示を飛ばす。
目がギラギラとして狂気をはらみながらも一歩も引かない。いや引くことが出来ない崖のすぐそばにあるかの如く。前にしか道はなく、後退は落ちるだけ。

ああ、私はあの時あの場所に立っていたのだ。と唐突に名前は納得した。

あの場所の熱気を思い出した。あの場所の狂気を思い出した。あの場所の恐怖を思い出した。
また行きたいかと言われれば答えはNOだ。あんな場所にはもう2度と行きたくはない。
でもあの輝きはまた見ることができるなら、見ることが可能であれば、見て見たい。

「……これ、ダビングしてもらえます?」
「いいぞ!」

他にもアニキのバトルの録画してあるけどそれは!?と聞かれたが、さすがに名前はそこまでは必要ないので断りかけたが、あまりにもキラキラとした表情だったのでお土産のひとつにするかと思って「じゃあ…おすすめのヤツ、2つくらい」とお願いした。

<<prev  next>>
[back]