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鶺鴒 (2/23)
01

また、見事に散った。
何社目だったかなんて、もう覚えてない。
数ヶ月前に勤めていた会社と一身上の都合というヤツだ。


「神様なんて居なーいさ、運命ーってなーんだ」


そんな独り言、もとい独り歌を唄ってしまうくらいショックを受けている。
ただ、それは某ビルの屋上で一人で柵にもたれながら数メートル先に見えるそのビルよりも低いビルの群れを臨みながら唄っているのでそれを気にする必要がない。


「あーあ、人生って不公平」

「何が不公平なんだい?」

「何がーって、こう何回も面接に落ちてさー…あ?」

「面接に落ちて?」

「………」


振り返れば長身で細身の女性。
ただ普通じゃないのは灰色の羽織に黒い着物、しかもミニだ。
それだけじゃない、その腰には太刀。
しかも、ここは人は確かに自由に出入りできる所だが、実際人がくることは少ない。


「あ、あの、どちら様?」

「んー、どちら様だろうねえ」

(あ、あやしい人…か?)

「面接に落ちたのかい?」

「え、あ、はい」

「そうかい。でも、そんな事で身を投げちゃいけないよ」

「はい?」


ああ、そうか。と納得した。
こうして屋上で一人、しかも寂しい歌を唄っていたのだ。
端からみたら今にも自殺しそうだったのかもしれない。
そう思ったら少し笑えてきた。


「違う違う、そんな事しないって。まあ、そうしたいときもあったけど」

「へえ」

「まあ初対面のオネエサンにこんな事言うのもアレなんだけどさ。ここは話しかけちゃった縁で聞いてよ」

「うん、いいよ」

「前の会社最悪でさー、色々あって体おかしくなって人間辞めたくなって、それで仕事辞めたわいいけど、それからさー」

「次が決まらないってわけか」

「そーそー。こうも嫌なこと重なると精神的にもかなりのダメージ。前の仕事でのトラウマ再発ー」

やっぱ駄目人間なんだな。とへこたれる。
自分でいって凹むのもお笑い草だ。
そんな風に感傷に浸る人間に怪しげなオネエサンはポンと肩を叩いて、それは「元気をだしな」と言っているようだ。


「仕事、あげようか君に」

「……は?何言ってんの?」

「仕事欲しいんだろう?」

「そ、そりゃあ…無職じゃいられないし…」

「いいよ、仕事あげる。ただし、条件がある」


なんだ、この人。
まさかヤバい人じゃないだろうな。
薬の売人とか、そっち系の。
そうか、だから太刀なんか持ってるのか。
これは逃げないと。


「ああ、仕事はちゃんとした仕事だよ。MBIって知ってるだろう?そこの社員」

「えむ びー…MBI!?」

「そこの社員にならないかい?」

「うぉえ、オネエサン何者!?普通そんな事言わないっしょ、重役?重役なの?」

「うーん、重役では、ないかな?」

「め、面接は?書類選考は?筆記試験は?あ、紹介状とかいらないの?」

「いらないよ、ただ条件があるんだ」

「…条件?」

「そう、私の葦牙のなってくれるのが条件だよ」


それって何?と問う前にオネエサンはキスをしてきた。

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