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大神 (14/15)
危機感の喪失

護衛というよりお目付け役のアベノを名前は撒いて西安京へ戻った。
陰特隊の出入口にはカモノという隊員がいるが、名前の姿を見るなり「またアイツ…」と呆れた様子で名前が出ていくのを止めもせずに見ているだけだった。
それに対してなんだかアベノに対して不憫に思った名前はカモノに「出てもいいですか?」と今更な質問をすると「良いも何も、ここに閉じ込めろという命令は聞いていません。それにアイツが仕事を全うできないのは…まあ、はい。ただ危険な事はしないように。ここの霧は害がありますから」という注意だけ。それでいいのだろうかと思いはしたが、アマテラスたちが戻らないし陰特隊のここではもう待つのは飽きてしまった。
確かに出るなとは言われていないのだから、ある程度は自由にしていいだろうという名前の自己判断でそこを文字通り飛び降りた。
普通の人間では自殺行為ではあるが、なぜかそれくらい大丈夫、そして余裕だと思った行動。そしてそれは見事に名前が思ったとおりに降り立つことが出来たのだ。

「……あそこから飛び降りるって…私どうして死なないんだろう…」

見上げると高い高い、まるで空中の小島のようなそこから飛び降りたというのは人からかけ離れた行動だ。それいま、また改めて知ってしまった様な感覚と、そして恐ろしさ。
なんだか人ではなくなってしまったような、そんな気がしてならない。
普通であればあんな所から飛び出ようと思わないし、きっとカモノも危ないといって止めただろう。いや、ウシワカの関係者だから…ということもある。

「あー恐い」

ぶるり。と震えてさっさとそこを後にしようと都を歩き始めた。
相変わらず都の中の庶民街では道のあちこちで具合の悪そうな人が蹲っていたり塀に寄り掛かっている。その間をさささと通り抜け、ウシワカと再会した場所まで行き、そして徳の高い尼さんがいるというところまで来た。
そこに恐る恐るはいると、実に妖艶な尼が一人。

「まあ、綺麗なお着物のお嬢様。私の説法を聞きに来たのですか?」
「あ、えっと…」
「そなた、もしやアマテラス殿のお知り合いか?」
「え、どうして…?アマテラスとお知り合い、ですか?」
「まあ、そんなところだ。イッスン殿から聞いた背格好と似ておったのでな。不思議な着物を着ていると聞いていたが、良い着物だ」
「あの、アマテラスを知りませんか?」
「アマテラス殿?貴族街へ行ったのを見たが…」
「ありがとうございます、あの…貴族街へは」
「ここを出ると貴族街だ、庶民では目立つがその格好であれば大丈夫であろう」

気を付けてお行き。と見送られ、貴族街へ出る名前。
そこも庶民街と同じ、いや、もう少しだけ濃い霧だった。
これには名前も予想外だったのか顔を顰め、小さく呻いた。
袖で口鼻を覆い、濃い方へ進んでみる。そこには衛兵が立っており、名前のような人間が易々と入れるような雰囲気ではなかった。ちょうど名前を見つけた衛兵の一人が名前に向かい「っしっし」と手であちらへ行けと言わんばかりの態度。確かにここは貴族街なのだから仕方ないことだろう。名前は大人しくそこから離れて物陰に隠れた。

(多分アマテラスたちはあそこにいる…と思う)

さて、ではどうするか。名前がそこに侵入したところで捕まるのが目に見えている。捕まって死刑だ!と言われる可能性だって少なからずある。
どうしようかと頭を傾げていると、誰かがぶつかってきた。

「わ」
「あ、も、申し訳ございません…急いでいた…もの、で」
「こちらこそこんなところに立っていて…?どうかしましたか?」
「え、あ…いえ、なんだか…なんだかとても懐かしい気持ちが」

ぶつかってきた女性はそれはそれは綺麗な金色の髪に整った顔。格好が少し見慣れないSF風と言う事を除けばかなりの美人。
その髪色に名前はどことなく懐かしさを感じてはいたが、その懐かしさはナカツクニに来る前によくテレビでみた女優さんやアーティストへの懐かしさなのだろうと思っていた。
その美女の頬には目から大粒の涙がこぼれ、はらりはらりとその頬を濡らしている。それには名前も目の前でいきなり泣かれて驚いた。
どこか怪我をしたのか、具合が悪いのか。はたまた暴漢がいたのだろうか、と。

「お名前は」
「え」
「あなた様の、お名前を。私はカグヤと申します…」
「カグヤ、さん?えっと、名前、です…あの」
「名前様、名前様とおっしゃるのですね…」
「あ、あの…?」
「カグヤの姉ちゃん!ってあれ?名前姉、こんなところで何してんだあ?」
「アマテラス、イッスン」
「ああ、そうだ…そうでした。私は行かなくてはいけません。そう、あの王家の紋章…笹部卿へ!」

名前様、また、またお会いいたしましょう!と名前の手をきゅっと握って立ち去るカグヤ。これには名前だけではなくアマテラスも呆気にとられたらしい。
それからアマテラスが名前にすりより、名前もアマテラスの頭をなでる。

「名前姉、どうしてここにいるんだ?それにその着物どうしたんでぇ?」
「着物はウシワカに貰って、ここにはアマテラスたちがいないかなーって思って」
「インチキヤローから貰っただぁ?あんなヤローから物を簡単に受け取るな名前姉!危ないだろ!」
「前の格好目立っていたし。まあ、うん」
「確かにな…悔しいが似合ってるぜ」
「ありがとう。で、えっと…カグヤ、さん?追った方がいいの?かな?」
「あ、そうだった。おいアマ公!追うぜ!」

アマテラスはイッスンの掛け声に合わせる様に名前を背に乗せて都を走る。
そして名前は気づいた。アマテラスに乗っている時点で格好云々は関係なく目立つということに。そして霧が晴れた事には気づきもしなかった。

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