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大神 (12/15)
戻ってきたもの

「アマテラス!イッスン!」

生贄となってヤマタノオロチを倒すのよ!と息巻いて出て行ったクシナダを助けて戻ってきたスサノオ。それから暫くして戻ってきたアマテラスとイッスン。
名前はサクヤから追い出されてから神木村であっちでウロウロこっちでウロウロとしてどうしてみようもない不安と時間を潰していた。
あの二人が戻って来てからはアマテラスが戻るのをただただ村の入り口付近で待ち、祭りだから酒を飲まないかと誘われてもアマテラスたちが戻るのをひたすら待っていた。

「よう名前姉」
「おかえり」

アマテラスの頭の上でピョンピョン跳ねるイッスン、そしてアマテラス。
アマテラスの体を抱きしめて、「おかえり」と再度いう。アマテラスはそれが嬉しいのか大きく尾を振っている。

「なんでぇなんでぇ、そんな寂しかったのかよ」
「そりゃ一人で待ってたからね」
「まあそれよから祭りだ!行くぞアマ公、名前姉」

ハイヨー!アマ公!とアマテラスを急かせるイッスン。
先にアマテラスが歩き、その後ろを名前が歩く。
ムシカイの母がしている畑近くでは男衆が酒を酌み交わし、コカリとムシカイは楽しげに遊んでいる。空にはタマヤの花火が打ちあがり、それを各々が楽しんではクシナダとスサノオの帰還を祝っていた。
その日は遅いからとミカン婆が「うちにお泊り、ヤマタノオロチが退治されたと言っても夜は妖怪が沢山でるからね」と泊めてくれた。




夢をみた。
それは恐らく夢なのだろう。
名前の目の前にはアマテラスと同じくらいの、黒い犬だ。
それがゆっくりと近づいてきて、ふんふんと名前の匂いを嗅いで、そしてワンと大きく一鳴き。それは威嚇するのではなく、尾を見れば大きく振れているので多分ではあるが歓迎されているのだろうと名前は思う。
アマテラスと同じように頭を撫でると嬉しそうにしている。
するとまた離れて、今度は名前の正面に座る犬。どうしたのだろうと眺めていると徐々に金色というにはもう少しだけ白い色が混じった模様が浮かび出てきた。それはまるで歌舞伎の隈取のように。
ああ、そう言えばいつか見た、喋る兎も同じような模様があった。色は赤で、名前をみて涙を流した兎。兎が涙を流すかは知らないが、喋る事はないだろう。
その犬はまるでアマテラスが助走をつける前の、あの溜めの行動の様に前傾姿勢をとり、そして勢いよく名前に突進した。
それに驚いた名前は身構え、犬がまるで暴走する車の様に名前にぶつかると思った瞬間、

「んがふっ!?」
「よう名前姉、寝坊助が過ぎるってんだ」
「お、重い…アマテラス…どいてぇ…あれ?」
「どうした?」
「アマテラス…イタズラされたの?赤い…」
「お?なんだ名前姉、アマテラスの隈取が見える様になったのか?そいつはすげえな」

寝ていた名前を起こしたのはアマテラスの頭突き。そして起きた名前の上にアマテラスが鎮座しているのだ。
外の様子からもう日は昇っているらしく、家にはミカン爺もミカン婆も姿が見えない。近くに桜餅があるのは食べなさいとミカン婆が置いてくれた物だろうか。
てしてしと名前がアマテラスを叩き、どいてくれるように頼み、そして起き上がった。

「しっかしまあ、よく寝たもんだな」
「…そんなに?」
「もう皆仕事始めてるぞ?」
「…………」
「どうした?」
「なんか…夢を見た気がするんだけど…」
「だけど?」
「忘れちゃった」
「なんでぇ、まあ夢は所詮夢ってもんだ。さっさと顔洗って行こうぜ」
「行くって?」
「両島原だよ、あっちには西安京って都もあるんだ。田舎者のアマ公と名前姉は吃驚して腰抜かすぜ」
「それは楽しみ。ミカン爺とミカン婆にお礼言って行こうか」

ぐぐぐっと伸びて、ミカン爺とミカン婆に挨拶とお礼をして、川で顔を洗って。
確か両島原に続く橋が上がっていてどうにも出来なったはずだが、今は通れるようになったのだろうかと、以前道すがらみた大橋を名前は思った。

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