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大神 (11/15)
正体の見えない話

あっという間の展開だった。
それは誰かが招いたわけでもなく、そうなる様にできていたのだろう。それを恐らく人間は運命という名前で呼び、ある人間はそれに従い、またある人間は背く。
名前はただ、そこに居るだけだった。
どうしようもなく、またどうにもできなかった。
戻った神木村は酷く暗かった。それは夜だからではなく、村だけに雲がかかって日を遮っていたのだ。それはまるでクサナギ村の瘴気の様に何かを意思を持ったように。

「…………」

名前はただただクシナダを追ったアマテラスの後ろ姿を見るしかできなかった。
突如頭に「お前はそこで待て」と言われた様な気がして、声を掛けることも走る事もできなかった。それはもしかしたら防衛本能というものなのかもしれない。
生贄など、名前には物語の中の存在でしかないのだ。

「シロの姉ちゃん、大丈夫か?」
「え、あ…うん、ムシカイは大丈夫?」
「ああ!ハヤブサが守ってくれてからな!オイラ、ハヤブサがいう事聞かなくなった理由なんて考えた事なかったけど、ずっとずっとここで何時くるかわからない矢を待っていたんだ…ごめんなハヤブサ」
「………ハヤブサはとっても強い犬だもん、ムシカイが怒っていた事なんてなんてことないよ」
「うう…」

ハヤブサは八犬士なのは名前も知っている。今この村にいる人間でそれを知っているのは名前だけだが、そんな事はどうでもいい。大切なのはハヤブサが主であるムシカイを助けたという事実だけだ。ハヤブサの正体がなんであるかは誰も知る必要がないのだ。
ここで名前は自分が何をすべきなのかを考える。
生贄を求めたヤマタノオロチの元に向かう?行ったところで自分に何ができる。
ではクシナダを追った方が良いのか?自分が追ったところで何ができる。
アマテラスを追うか?名前には自分の身でさえ守れない、なにが出来る。
名前が出来ることは何もない。この事態を起こしたスサノオを責める?それは違う、自分は責める立場でもなければ同情さえも出来る立場でもない無関係な存在だ。

「どこ行くんだ?」
「ご神木のところ」
「シロはいいの?」
「うん、大丈夫。戻ってくるから」

誰が?何がだよー。とムシカイが声を上げるが、名前はただご神木を目指す。
ただそこに居てもしょうがないから、なのか、なにかが呼んでいるような気がしたから、なのか。
長い長いぐるぐると周るような坂道を上り、ご神木の鳥居まで来た。
名前にとって始まりの木と言ってもいいのかもしれない。初めてアマテラスとイッスンに出会った場所。鳥居をくぐれば根本には不思議な光が見えるが、くぐらなければ何も見えない。
なんとなく、手持無沙汰というのだろうか。そのまま鳥居をくぐって不思議な狭間へと歩みを進める。きらきらゆらゆら、そんな表現がちかいのだろうか。

「……この奥、なにがあるんだろう」
「イザナギの祠です」
「!」
「……?」
「…もしかして、サクヤ姉、さん?」
「コノハサクヤ姫、と」
「…コノハ、様?」
「そう呼ばれておりますが、どうか私の事はサクヤ、と」
「サクヤ様?」
「いいえ、様は不要にて。サクヤ、と」

人が浮いている上に、なんという格好だろうか。色々突っ込みたいところはあるものの、名前は恐らく普通に会話しているという事実にも驚いた。
たぶんではあるが、コノハ様といえばミカン爺が守り神と奉っているご神木のこと。そしてその名前を持っているのであれば守り神と言う事になる。
神様という存在は曖昧なので名前には良く理解できないが、こうして浮いているのだから多分神様なのだろう。そう考えるとオカルトの世界だが、昔の為政者はこういう事をして求心力を持っていたのかもしれない。マジック、手品はそういう経緯から生まれたと聞いた事が有った。

「私もこうしてお目にかかる日が来るとは思っておりませんでした、当初はまだお眠りのままでしたので」
「………」

何を言っているのだろう、と名前は落ち着きながらも思った。
もしかしたらここに来た時点では自分では気づかず寝ていたのだろうか、そしてアマテラスやイッスンのと出会った、ということなのだろうかと。
名前には心当たりはないが、もしかしてサクヤが助けてくれたのかもしれない。
小さな声で「その節はお世話になりました」とお礼を言えば、サクヤはくすくすと笑った。

「………」
「いいえ、いいえ。とんでもございません、お元気そうで何よりでございます。十分ではないご様子、ご無理をなさいませんよう」
「は、はい…」
「ですが、そろそろご出立のご準備を」
「どこに、ですか?」
「おわかりのはずです、半身を取り戻さねばなりませぬ。慈母が奔走しておりますが、あれは要でございます」
「…?」
「私も詳しい事は存じませんが、アレが無ければ不完全なのです」
「なんの話ですか?」
「ああ、そうです、そうでした。まだわからないのですね、申し訳ございません。ヤマタノオロチを封じていた剣を、どうか」
「つるぎ?」
「それが必要なのです」
「…はい……?」

必死に何かを伝えようとしているサクヤに対し、名前は何がなんだかわからず曖昧に反応する。
これにはサクヤも困ったのだろう、やれそうだ、こうだ、あれだ、それだ、と言ってみるが名前にはちっとも伝わらない。直接的に伝えても名前にもきっと伝わらないだろう。
最終的にはサクヤが「いいから行くのです!良いですか、ここにはヤマタノオロチを倒すまで立ち寄らぬよう、お願いいたします!これは私が心を鬼にして申しております!失礼を承知ではありますが、これも致し方ありませぬ!剣ですよ、剣!大切にするのですよ!!」と突風を吹かせて狭間から名前は追い出され、鳥居をくぐってもあの狭間には入ることが出来なかった。

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