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大神 (9/15)
八犬士/八犬士

「というわけでな…」
「まあ!」

名前が思っていた通り、八犬士だったハヤブサ。
イッスン曰く、ハヤブサはハヤブサの事情があるからと、他の三匹の八犬士と同じにクサナギ村に戻れないというのだ。
その代り、八犬士が持っていた宝珠を持ち帰ってきた。

「…そういえば名前さん、具合の方はいいのですか?まだ瘴気が晴れておりませんが……」
「そういえば…前ほど悪い感じじゃないです。どうしてだろう」
「旅でちったあ鍛えられたんじゃねえか?弱弱から弱くらいに」
「ちょっとは鍛えられた?のかな?」
「しかし油断はできません。凸凹隊から持って来ていただいたこの宝珠を使い、赤カブトを…」

倒して見せます。と続くはずだったのだろう言葉。
その決意を見せる前に宝珠がくるくるとアマテラスの周りを回り始めたではないか。
それはフセ姫だけではなく、その場にいた八犬士たちも驚いた様子でそれを眺めている。どうやらこうなるとは誰も思っていなかったらしい。勿論名前も含めて、だ。

「な、なんと!」
「……これ、どういう事なんですか?」
「宝珠の主は持ち主に非ず、宝珠が選ぶのです!宝珠が認めた主がまさか…」
「アマ公ってワケかィ?」
「そうあっては私達にはどうしようもございません、御二方にお願いいたします!どうか赤カブトを」
「な、なにィ!!??」
「名前さんの事はお任せを!我ら宝珠無くとも八犬士、妖怪どもから守る事はできますので」

ふん!と、胸をはるフセ姫。彼女だけではなく周りの犬たちも次々にそうだと言わんばかりに吠えてアピールをする。
どうやら八犬士たちもアマテラスに赤カブトの退治を期待しているらしい。そしてアマテラスもやる気があるのか、ふん!と背筋を伸ばすようにしている。

「…………」
「では凸凹隊のお二方!よろしくお願いいたします!」
「お、おう!行くぜアマ公!名前姉はそこで待ってな」
「…気をつけてね……」

名前の言葉が聞こえたかどうかはわからないが、アマテラスはそれこそ風の様に駆けて行ってしまった。
比較的置いて行かれる立場である名前ではあるが、今回もまたそうらしい。ただ違うのは今回は名前と待つお留守番が沢山いること。
普段少なくて寂しいと言う事はないが、こうも沢山いれば退屈することもないだろう。大半が犬で会話にはならないのだが。
前回のような遺跡であれば、名前はその辺りをウロウロするか一緒に居たコカリをなだめたりしていたのだが今回は外の瘴気が外部から来た人間には負担が大きいという前回の事もあり、お屋敷でアマテラスたちを待つほかない。
一緒に八犬士たちが自分の場所なのだろう、座布団の上に座って良い子にしている。
ただ、名前が動くたびに犬たちが「なんだなんだ」と言わんばかりに注視するのは少しだけ居心地が悪いのだが。

「名前さん、お食事でも」
「え…でも」
「私が貴女を預かると言ったのです、このくらいはいたしませんと」
「ありがとう、ございます」
「お礼を申し上げねばいけないのはこちらです。さあ、どうぞ」

出された御膳。どうやら暫く姿見えなかったフセ姫は食事の準備をしてくれていたらしい。
出された御膳はミカン婆が食べされてくれた素朴な食事とは違い、なんだか緊張した様子の名前。此処へ来る前の生活でもこのような御膳で食べるというのは特別な時しかなったからだ。そしてついでに言えば、周りの犬が一斉にこちらを注目しているというのもある。

「……私だけ、頂いてもいいのですか?」
「ええ」
「フセ姫…さん、は?」
「私の事など気になさらずとも良いのです」
「……八犬士には」
「八犬士は家臣、主人の客たる名前さんが先に食べるのは通りというもの。八犬士たちには後で」

名前にはわからないが、フセ姫がそういうのだから、そうなのだろう。
名前に犬と言えば今一緒に旅をしているアマテラス。しかし名前とアマテラスは主従ではないし、どちらが上ということもない。どちらかと言えばイッスン曰くポアっとしているアマテラスに名前が世話になっている形だ。急に見ず知らずの土地に迷い込んでしまった名前をアマテラスが引っ張ってくれて、イッスンが上手い口で旅を行えている。
名前とイッスンは食事をとるが、アマテラスは食事をしない。しないというわけではないが、名前が準備することも無ければ狩りをすることもない。ただ周りの人が「犬にもあげるよ」とくれる物を口にしている。
(……あれ?)
と出された御膳の箸に手を掛けながら名前はふと思った。
どうして今アマテラスが食事をしないと思ったのか、どうしてそう判断したのか、と。

「名前さん?何か食べられないものでもありましたか」
「あ、いいえ…」
「まさか瘴気で具合が悪くなられましたか?」
「いいえ、大丈夫です。ただ、」
「ただ?」
「……なんだか、変な事を思ってしまって」
「変な事?」
「あ、いえ…そんな変では…なくて、いただきます!」
「そうですか?」

ご飯美味しいです。と変な事を思ってしまったという事をまるで飲みこむように名前は勢いよく食べ始めた。

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