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大神 (8/15)
七犬士/八犬士と兎

それは不思議な兎。
餅をつく杵を持ち、体は白地に赤い模様、そして最後には人の言葉をしゃべるではないか。
その兎は名前の姿をみとめると、アマテラスを通り過ぎて名前に駆け寄り、まるで人の様にはらはらと涙を流した。

「あ、あれ…?畳頭は?梅之助は?曇りヶ淵…アガタの森?」
「梅太郎な、梅 太郎。」
「気配にてお戻りになれた事を感じてはおりましたが、この様なお近くにいらっしゃるとは露知らず」
「……?」
「御身から離れ、慈母へと参り、慈母から離れ幾星霜」
「ここの兎は喋るの?イッスン」
「弓神だぜ」
「ゆみがみ?」

はらはらと相変わらず涙を流す弓神。名前自身兎が涙を流すとは思っていなかったし、体よりも大きいのではないかと思う杵を持ちながら器用に泣いている。
不思議に思いながらも膝をつき、「泣かないで」と頭を失礼かもしれないと思いながら遠慮がちに撫でてみる。すると余計に泣き始めるではないか。これには名前も焦ってアマテラスを呼んでみると、今度はくるりとアマテラスに向き直ってドスドスと杵で威嚇をはじめた。

「な、なんで!?」
「申し訳ありません……少々好敵手のような関係でして」
「アマテラスは喋らないのにウサ…弓神様は喋る…ん、ですね」
「様などと付けていただく事はございません、むしろそうお呼びしなければこちらの方にございます」
「……?」
「まだ本調子ではないのは存じております、長い長い休養が必要でございました」

泣き止まない弓神の体がスーッと透けていき、「弓」という文字になるとアマテラスへと吸い込まれるように引き寄せられ、そしてアマテラスの体に入って行った。
どういう事なのだろう、と名前が頭を傾げたり目をこすったり。
そんな事をしても事態を理解することは名前にはできなかった。
ただわかるのは、喋る兎がアマテラスに吸収されてしまったと言う事だけ。
驚いたまま膝をついた格好でいれば、アマテラスがべろべろと頬を舐める舐める。

「うおう!」
「そうか、名前姉は初めて見たんだな」
「…初めて?」
「筆神をだよ!アマ公はこうやって筆神を取り戻していたんだ」
「へ…へえ…」

アマテラスにされるがままの名前。
すると梅太郎が姿勢を低くしてグルルルルルと唸っているではないか。それに名前は「え、な、なんで?」とオドオドしているとイッスンが「なにぃ!」といかにもな口調で実は八犬士なんのだと説明してくれた。

「あわわわわ…どどどどうしよう、梅太郎とシロワンコが!ごめんなさい!梅太郎いつもこんなことしないのに…」
「梅太郎にも引けない時があるんだよ…」
「え?」
「これは多分、梅太郎の戦いだから。一緒に見守っていよう」
「う、うん?よくわからないけど、シロワンコのお姉さんがそれでいいなら…」

犬と狼が付いては離れ、唸り声をあげては牽制しあっている。
アマテラスが大きく跳ね上がって梅太郎の動きを止めてしまえば、キャインと犬の弱弱しい鳴き声。
どうやらその一撃で勝負がついたのだろう。
立ち上がった梅太郎はアマテラスの元に行き、ふんふんと何かを交わすとトコトコとコカリの元にやって来て尾を振っている。

「梅太郎!どうしてシロワンコとケンカしたんだい?びっくりしたよ…動物の世界も大変なんだね」
「そうだね」
「……シロワンコのお姉さん、どうかしたの?なんか元気がないみたい」
「うん?そうかな…?ちょっと疲れたのかも」
「大丈夫?家で休む?」
「大丈夫、行かなきゃ」
「そう…?気をつけてね」

じゃあね。とお互い手を振る名前とコカリ。その横では梅太郎が何か伝えたげにワンワンと吠えているが、生憎名前には犬の言葉はわからない。
多分ではあるが、今まで八犬士を見ているとあの首飾りとバンダナような首輪。恐らく梅太郎は八犬士の誰かなのだろう。それで男の意地か何かでアマテラスと勝負してさっぱりとしたのだろう。なんとも良い顔をしているように見えた。

「じゃあ次に行くか。神木村にしるしがあるが…」
「ハヤブサかな」
「なんでぇ、確かにあの村に犬ってぇとハヤブサしかいねえが」
「ほら、首飾りが一緒でしょう。玉があって、字かあって」
「あー確かに」
「一緒に来てくれるかな」
「どうだろうなぁ」

森を歩きながら次の八犬士の事を話す。
神木村はしばらくぶりではあるが、村人は良い人ばかりで食べ物を分けてもらった。
特にミカン婆の必殺桜餅は見どころというか、食べごたえがとてもある。
戻りついでに桜餅が食べられたらいいなと思った名前であった。

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