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大神 (4/15)
アガタの森の変人

「とまあ、神木村付近はこんな感じかねぇ」

神州平原、花咲谷、アガタの森。
その森の入り口に差し掛かったところだった。
この辺りは風景も何もかもが自然で綺麗なんだとというイッスンの説明。
なにより花咲谷での大神降ろしというのは名前にはすさまじい衝撃だった。
花咲き乱れるという言葉はまさにこの為にあるのだろうと、それはまるで天啓の様に思えたのだ。
あの物悲しく、そしていて排他的であって、すべてが終わってしまった様な風景があらゆる命が息吹を戻した瞬間だった。
それに感動しているとアマテラスがくいくいと名前の袖を引っ張り、次へ次へと付いて行っている。

「それにしてもアマテラスの、筆しらべっていうのは便利だね。人が乗っても沈まない蓮の葉が水面にできるんだもの」
「おっと、これじゃ名前姉は登れねえな、アマ公」
「うわ…っと」
「毛むくじゃらに感謝だな」

ひょいと背に乗せられたと思えば、また軽々と高い壁を飛び越える。
そこへ降り立てば薄くモヤのかかった大きな沼のような湖のような、そんな光景が眼下に広がっている。

「湖?それとも沼?」
「アガタの森だって言ったろ?、アレは…なんとかっていう沼」
「沼…こんな大きい沼初めて見た…すごーい」
「あんまり覗き込むと落ちるぞ、名前姉はおっちょこちょいだからな」
「落ちないよ、失礼な」

そんな会話をしながらアマテラスが先導しつつ坂道を下る。
少し油断すればタタリ場と言われる、害がある空間があるという。それに関しては名前には感じる事はできないが急に具合が悪くなるのは神州平原で経験している。名前の目には感じられないがアマテラスやイッスンにはわかるというのでここは大人しく後ろを付いて行く。

「ここもタタリ場があるの?」
「ああ、あるぜ。修行をつめば名前姉にも見えるようになるさ」
「そんなもの?」
「たぶんな」
「なんだ」
「へへ」

おんおん!とアマテラスも会話に入っている気分なのだろう。実に軽やかに吠えて機嫌がよさそうである。
誰かと歩くには少々狭い道ではあるが、こうして列になってしまえば造作もない。そこを歩いていて大神おろしをすべきご神木を探す。

「ヘイ!そこ行くご一行!」
「……知り合い?」
「いや?名前姉の知り合いでもねえのか?」
「あんな変人に知り合いには…ちょっといないかな。アマテラスは?」
「狼に対して知り合いとかそれこそド変人じゃねえか名前姉…」
「黙ってヒアリングしていれば…おほん、ついに目覚めたねアマテラス君!」
「マジもんの変態だ…ああいうのと関わってちゃダメだぜ?」
「そうね…ああいうタイプは無視が一番だわ……ん?アマテラス、くん?」
「…知り合いか?アマ公」

桃色の衣に身を包んだ変人、もとい青年が一人。
ズビシとポージングを決めてこちらを見ている上にここの土地ではあまり聞き慣れない言葉で話しかけている。そしてアマテラスを名指ししているではないか。
そのアマテラスといえば、あお?と、さあ知りませんけどと言わんばかりに頭を傾げている。

「……どうする?無視して行く?」
「無視しない!ユー酷くないかな!」
「この場合無視してもめんどくさそうだぜ?」
「でも変に刺激してって、事もあると思うんだけど…」
「そうかい、そういうプランなんだね!じゃあこっちも準備運動といこうかアマテラス君!」
「あ、話聞かないタイプの人かー」
「たいぷ?」
「人倫の伝道師ウシワカ イズ ヒア!」
「来るぞアマ公!名前姉はどっか逃げてろ!」

光る刀身を携え、ゆっくりと戦闘の体勢に入るウシワカという変人…青年。
イッスンとアマテラスはやる気に満ち満ちているようだが、普通の人間である名前には急に逃げろと言われても土地勘も無ければ足場も悪い。
急いで逃げ出したところで後ろは高い高い壁の様な崖だし、今まで来た道を戻るしかない。

「きゃ…っ」
「おいこら!なに人質なんざ取ってやがる!!」
「ノーノー!レディに怪我でもあったら大変だろう?だからまずは安全な所に移動してもらうのさ!」
「うきゃああああ!」

先ほどまで、勢いをつけても渡りきれないであろう小さな陸地に居たはずのウシワカに名前はワケもわからず、俗に言うお姫様抱っこの形で抱かれているではないか。
これには名前は叫び、喚く。まったくもって意味がわからない!と。
しかし当のウシワカにしてみればどこ吹く風らしく、軽やかに「はははは」と笑っているではないか。
それにイッスンまでもが「人質!」と抗議し、アマテラスもグルルルと唸っている。

「よし、じゃあユーはここで観戦だよ!」
「変態空を飛ぶ…変態恐い……」
「ミーは変態じゃない、ウ シ ワ カ !」
「ぐおーらー!!インチキ変態ヤロー!!」
「まったく、ミーがこうして避難さないとレディが怪我をしてしまうだろ?そんな事もわからないのかい?ゴムマリ君。じゃあ仕切り直して…レッツ!」

すっと降ろしてもらった、例の森の入り口。
調度、先ほどの足場の真上あたりだ。そこから勢いよく再び飛び降りてまるで奇襲の様にアマテラスに踊りかかるウシワカ。
金属と金属がぶつかる様な、物騒な音が森に響いた。

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