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大神 (3/15)
大きな石というか岩というか

「で、どこから来たかわかったのかい?名前姉」
「まったく…わからない」

アマテラスの背に乗せられ、村の中をくまなく散策し、いたるところに石像があると思って眺め、最後に高台に登ってイッスンが「お天道様がでてくれりゃあよぉ」と独り言をこぼせば、あっという間に太陽が昇った。
それからは石像だと思っていたものは本当は人間で、背に人間を乗せた犬を見ては奇異な目で見られていたので流石に嫌だったので名前は「降ろして」と言って一緒に歩いて周った。

「シラヌイ様に似た狼…お前さんの狼かい?にしても見ない格好じゃ…」
「シラヌイ様みたいなワンちゃんね、あなたのワンちゃん?あまり見ない格好ね、都ではそれが流行なのかしら、素敵!」
「シロわんこ!オイラのハヤブサとどっちが穴掘りが上手か勝負だ!で、姉ちゃんなんでそんな変な格好してるんだ?」
「ありゃーあ、シラヌイ様にそっくり…と思ったけど、ちょっととぼけた顔をしているね。それでアナタその恰好どうしてんだい?都の人かね」

「シラヌイって、なあに?」
「よそモノの名前姉に説明してやると、伝説の狼だよ。昔々ここの村を苦しめたヤマタノオロチって化け物を退治した英雄と狼、その狼の名前がシラヌイってんだ」
「へえ…」
「それで村人がそれを讃えるのに石像を作って奉っていたってわけだ。ま、そっくりっていうか、その石像がこのアマ公なんだがよ」
「…石像が、アマテラス?」
「サクヤ姉がその石像にチョチョイとな」

アマテラスの頭の上でピョコピョコと跳ねるイッスン。
どうにも名前には理解しがたい話だが、ここではもしかしたらよくある話のひとつなのかもしれないと納得した。

そもそも名前が知る場所とは似ても似つかない、そして何より人の服装が違いすぎる。まるで昔話の世界に入ってしまった様な服装だ。
着物というには少し砕けたような服装、靴を履いているような人はおらず、いても草履が関の山。
本当は夢なのではないかとも思うが、恐らく夢ではないのだろうと名前はなんとなく思っていた。

「オイラは旅をしているが、名前姉みたいな格好してる人間見た事がねえな」
「……そう?私もここの人みたいな恰好をしている人見た事がなかった。私何処から来たのかな」
「…………なあアマ公、お前名前姉連れて行ってやれよ。どうせここを旅するんだからよ。オイラ達と一緒なら多少変な格好でも、まあ…旅人だからってのでさ…」

その言葉に元気よく吠えて返すアマテラス。
どうやら賛成の意を表しているらしく、尾が元気よく動いている。
名前がなんとなく撫でてやればなんともうれしそうにしている。
そのまま村の出口まで行くと大きな石、いやアレはもう岩だろうか。それが大きく出入口をふさいで出る事も入る事出来ない状態だ。

「奇妙な格好をしているが…この村の人かい?ここの石何か知っていかい?都に戻って品物を調達しようと思ったのに出られなくてね」
「いえ…初めて見ました」
「なんだこのでっけえ石!」
「なんだもう一人いるのかい?スサノオって男は英雄イザナギの子孫て話だけど、これをどうにか出来ないかね」
「スサノオ?」
「この村に居るおっさんさ。英雄イザナギの子孫って話のな」

ぴょーんとひとつ大きく飛び跳ねたイッスン。
「おっさんを呼んできてやるよ、こっちだ」とアマテラスの頭をつつき、そして名前に付いてくるように促す。
大人しく名前がその後ろを付いて行くと、村の出入口からすぐのなんとも古めかしい一軒の家にアマテラスは入って行く。
流石に見ず知らずの人間の家に黙ってはいって行く気にはならない名前は大人しくアマテラスとイッスン、そしてそのスサノオという男性が出てくるのを待っている。
数分程度だろうか、騒がしい男性の声と共にアマテラスが勢いよく飛び出し、その背には男性が一人。

「名前姉!付いてきな!」

とイッスンの勢いの良い声。
あの人がスサノオなのかと思い、イッスンの言葉のままに急いでその後を追う。
そしてあの大きな岩の前に付く寸前にそのスサノオはすさまじい形相で名前とすれ違い、また家の方にかけていくではないか。

「あ、あれ…?」
「やあお嬢さん。スサノオなら剣を慣らすとか言って戻ったよ、まあ気長に待つさね。そもそもアレがあの有名なイザナギの子孫とは思えんし」
「確かヤマタノオロチを倒したっていう」
「そうそう。ところでお嬢さん、何か入用はないかい?これでも行商人でね、品数は少ないが物はあるよ」
「大丈夫です、間に合っています。あの、シラヌイはご存知ですか?」
「ああ、知っているさ。コノハ様の所にあるあの石像の犬だろう?昔はヤマタノオロチの使いだなんて言われて嫌われていたらしいじゃないか」
「へえ…英雄と一緒にヤマタノオロチを倒したのに?」
「なんだい知らないのかい。最初は十五夜の近くになると夜な夜な現れるからヤマタノオロチの使いだと言われていたが、蓋を開ければ本当はこの村を守ろうとしていたって事さ」
「よくご存じなんですね」
「なに、行商人の性でね。こういう話はよく耳に入るのさ。それに昔話としてはまあまあ有名どころさね」

ふう。とキセルを口に含んでふーと煙を吹き出す。
そんな雑談をしていると再びスサノオがすさまじい形相で走って来て、なにやら呪文のような言葉を発しながら実にアクロバティックな身のこなしで岩に襲い掛かる。
するとあのへんちくりんな剣からは想像もしない様な切れ味でその岩が真っ二つに斬れるではないか。
これには行商人だけではなく名前も驚いた。

「いやー、流石は英雄イザナギの子孫!助かったよ」
「は、ははははははは!これくらい当たり前のこと!……なんだ、お前は面妖な格好をしおって」
「え、あ…っと、」
「なんでぇおっさん、オイラ達の連れになんか文句でもあんのかィ?」
「金玉虫とポチの…?飼い主か。この二匹の飼い主であれば面妖であるのも納得がいくというもの。何かあれば我を頼るがいい!」

がっはっは!と笑いながらスサノオは大きくのけぞって、イッスンは己が金玉虫と言われたのが余程腹が立ったらしくプオーを怒って飛び跳ねて抗議していた。

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